第6話 音羽リュウジと演劇部②
帰りの電車のなかではずっと近衛さんが話をしてくれた。ひたすら最近自分の身にあったことをしゃべり続け(また芸能事務所にスカウトされたが断った)、僕は感想を述べ質問をし近衛さんの話の続きをうながした。近衛さんは本当に面白い女性だ。思ったことを包み隠さず表現できる人だ。
こういう人がいつか広い世界に飛びこんでいくのだろう。
もう終わっている僕とはあまりにも不釣り合いである。現実は非情だ。
現実といえばシサにつきまとわれているのも僕の現実な訳で。
あの子から電話があったのは僕が駅から降り家に歩いて帰る途中のことだった。
「こんばんは。私でぇす」
「そうか、ライン教えたもんね。切ったら着信拒否にするからいいけど」
「よくないですよ! 切らないでください」
「僕に切らせない動機をあたえてよ。前会ったときはやってくれたね」
「……怒ってますか?」
「怒らないと思ったの?」
「私は真剣です」
「へぇふぅんほお」
「だからごめんなさい。……不愉快な思いをさせてしまいましたね。今眼の前にいたら頭を下げて謝ることもできたんです……」
「俺につきまとわないって約束してくれる? 遠くから見張るとかそれに類する行為を」
「しません」
ノータイムでそう断言したシサ。
口先だけならなんとでも言える。
「どうしてこんな遅くに電話を?」
「リュウジ君はいつも部活動で遅く帰るでしょう? まだ起きていると思って」
不自然な回答ではない。
「君の家って川崎?」
シサは都内某区の名前を挙げた。
「リュウジ君の家まではかなり離れています。あのときは家の者に送ってもらっていて」
「家の者……」
あの老執事か。
面長で白髪頭の抜け目なさそうな人だった。
「リュウジさん、あの……」
「なんですか?」
「何度でも言いますけれどあなたのことが好きなんです」
率直がすぎる。
「素直がすぎない?」
「そういう性格なんです。自分でも直したいと思っているのですが……。リュウジさんは誰か好意をもっていらっしゃる異性あるいは同性のかたがいますか?」
「僕は
シサのため息が聞きとれた。
「君が怒ろうが俺は態度を軟化させたりしないよ」
「怒ってなんてないです!」
怒っているみたいだった。そして感情いっぱいなシサの声色が僕には魅力的に感じられた。余裕ぶっているときの彼女よりも。
「近衛さんですか?」
なんでわかるんだよ。いや女の勘ってやつなのか(要出典)。
「そんなことないって。俺は純粋にあの舞台が好きだから関わっているだけで、誰かを好きになったりはしない」
顔をあわせてもいないのにシサの熱いまなざしを感じる。
彼女はいつも僕の顔を見ていたから。
「本当に? 男の子が女子生徒のみなさんに囲まれて本当になにもないんですか?」
マジでなにもないのだからしかたない。僕が特別退屈な人間なので一切そういうイヴェントが発生しない、ただそれだけの話だ。部員のみんなも僕なんかを異性として意識していないだろう。そんなまさか。
「えーとさ、俺のことはほっといてくれない?」
なんかクールぶった対応をしている僕だったが、その実女の子から告白されて嬉しいという感情を必死になって隠していたので実に凡夫である。
※※
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