第5話 暴れワイバーンを力技で制する


俺はアリアと共に王城の片隅にあるワイバーンの小屋にやってきた。


ここにいるワイバーンは主にこの王城にいるいわゆる竜騎兵と呼ばれる兵士たちが、有事の際に使うものである。


とはいえ普段はあまり役目がない子達だ。

だから俺たちのような王族が遊びに乗ることもある。


今回も言ってみればそれに近い。


「ここでお待ちをグラン様」


アリアが小屋の中へ入っていく。


俺は小屋の外で待機だ。


すると、しばらくすると中から声が聞こえてきた。


「グラン様がワイバーンに乗られるそうだ。一番大人しい個体を頼む」

「おまかせを!」


元気な声。


(小屋でワイバーンの世話をしている子か)


いつもご苦労さまである。


ノシっノシっ。


待っていると中からワイバーンが出てきた。


口には猿ぐつわ。


それからリードを付けられたワイバーンだ。


完全に人が乗るように調整された個体だ。


「グラン様。こちらがワイバーンでございます」

「ありがとう」


俺はそう言ってアリアから手網を受け取ろうとしたのだが……。


そのときだった。


バキャリッ!

猿ぐつわが破壊された。


「グワァアァァアァァ!!!!!」


急に牙を剥いて俺に襲いかかってくるワイバーン。


時が止まったようだった。


アリアの顔は絶望色に染っていた。


(やばい。王族に怪我をさせてしまうなんて、1家まとめて処刑される)みたいな顔をしている。


だが俺は冷静だった。


(低レベルでつまらん奇襲だな)


ワイバーンに目を戻した。


「奇襲をするならもっとギリギリまで引きつけることだな。それから相手を選べよ」


俺はそう言いながらワイバーンの下顎にアッパーをねじ込んだ。


「ぎゅっ?!」


変な鳴き声を出してその場に伸びるワイバーン。


「悪いがこんなワイバーンには乗れないな。俺はもっと素直なワイバーンがいいぞ」


俺はワイバーンの紐を掴んでそのままズルズルと小屋の中に引っ張っていった。


中にいたのは猫耳の女の子。


もちろんその子も顔を青ざめさせていた。


俺が何か言う前に口を開いた。


「申し訳ございませんでした、お怪我はありませんか?グラン様」


顔から血の気が引いていた。


王族の俺にあんなワイバーンを出してしまったことのヤバさが分かっているようだ。


「君は事の重大さが分かっているようだ。しかし」


俺はワイバーンを見て続けた。


「このワイバーンの教育は足りていないな。もっと、人に逆らってはいけないということを教育しないといけない」

「も、申し訳ございません!」


土下座してきた。


「も、申し訳ございません!」


とにかく謝ってきた女の子。


「な、なにをしてくれてるんだ」


そのときアリアが中に入ってきた。


「極刑ものだぞ?今のは間違えたでは済まされないことだ。死ぬことすら生ぬるいような刑罰があぁぁぁあ、おしまいだよ」


アリアのやつはどうやら勘違いしているようである。


間違えた、で済まないのは俺以外の王族だった場合の話だ。


「いいよ。間違えたで済ますよ」


俺はそう言ってやった。


すると2人はいっせいに口を開けた。


「「えっ?」」


「別に怪我もしてない、間違いなんて誰にだってある事だ」


ポカーンと俺を見てくるアリア。


「本当にお許し下さるのですか?」

「許すよ。俺は嘘なんてつかないよ」


そう言うと猫耳の女の子も聞いてきた。


「王族様なのに、許してくれるのですか?この無能な私を」

「いいって。その代わりこれからはミスをしないように気をつけることだ」


「ありがとうございます!グラン様!」


ぺこり!

勢いよく頭を下げた彼女。


俺はそんな女の子の頭をポンポンと撫でて言った。


「これからも頑張ってね。他の人には絶対に言わないからさ」

「はい!本当にありがとうございますうっ!」


ぺこり!

何度も何度も頭を下げられながら俺はアリアに目をやった。


「アリア。分かってるよね?俺はこの件を大きな問題にはしないけど、それでも調査は必要だ」

「心得ております」


もちろんの話だが、王城のワイバーンの管理なんて厳しくて当たり前だ。

調教の終わっていないワイバーンなんて本来ここにいていいものではない。


つまり


「誰かが意図的にここに調教の終わっていないワイバーンを連れてきた可能性がある。分かってるよね?」

「もちろんでございます」

「調査をよろしく頼むよ。だから、森の同行はいいや。これは王族命令だ。必ず調査せよ」

「森への同行の件はどうしましょう?」


もうアリアには隠し通せないと思ったので話しておく。


「こう見えて冒険者ってやつの真似事は得意なんだ。森くらい大した問題は無いよ。秘密裏に行ってくる」

「了解しました。必ずやこの件については調査してみせましょう」

「よろしく頼むよ」


俺は新しくワイバーンを借りてそれに乗るとそのまま城を出ていくことにした。


そして、向かうのはもちろん世界樹の森である。


世界樹の森の入口に降り立った。


中まではワイバーンが入っていけないので、入口からは徒歩での移動になる。


「さてと。とっととアイテムを回収してとっとと帰ってしまおうか」


という訳で俺はさっそく世界樹の方まで歩いていくことにした。


世界樹は樹齢が高いだけあって背も高い。


外からでも一目であれがそうかと分かるくらいである。


なので森のどこからでも見えるし最短ルートを辿るのは簡単である。


迷うことも無く世界樹の下に到着した。


何年か前に来たことがあるがその時もかなり大きな木だったのを記憶している。


数年経った今見てもやはり大きい。

タワーマンションを見上げている感覚に近いか。


「いかんいかん、圧倒されてたな」


目当ては世界樹の種である。


俺はまず木の周辺に種が落ちていないかを確認することにした。


種は上の方に実るんだが、他の木の実のように落ちていることもある。


のだが……


「ふむ。今回はなしか」


仕方ない。


上に登るとしよう。


ちなみにだが世界樹の種はどんなモンスターや生物が食っても効果があるものである。


例えばモンスターが食べればより強い個体になることが出来たりするそうだ。


数年前に来た時はそういうモンスターは見たことがないんだが。


「今回はもしかしたら出会えたりするかもしれないな」


世界樹の種を食べた強い個体を。


「久しぶりに全力を出せるような相手とかいないかなぁ?」


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