第4話 【クズリット視点】なぜ、奴が?


大きなホールでフレイヤ第三王女の声が響いた。


「私はこの国に婚約者を探しに来ました!」


周りからは声が上がる。


主に大人たちが声を上げていた。


「おぉ、美しいな」

「まるで宝石のような目をしてらっしゃる」

「肌はすべすべで、髪はサラサラ」

「さすが、帝国の王女様ですねぇ」

「しかも礼儀までもが正しいなどと、王子の婚約者として相応しいお方ですね」


多くはフレイヤ王女を褒めるものだった。


この場でフレイヤを貶すような発言をする者など、いっさい存在しなかった。


それだけ彼女の容姿は優れていたのだ。


そこで、1人の男が口を開いた。


6男のクズリット王子である。


「フレイヤ様!ぜひ僕との婚約を!」


「はい!」「はい!」と手を上げて子供のようにアピールをするクズリットにフレイヤは目をキラキラさせた。


「さっそく、名乗りあげありがとうございます。ですが、実はと言うと私はすでに心に決めている相手がいるのです」


「それは、誰なのでしょう?!」


クズリットの声。


もしかして、自分なのではないだろうか?という期待がまだこの時にはあった。


しかし、彼の希望はすぐに打ち砕かれることとなった。


「グラン様です。あの方はどこにおられるのですか?あの方も王子様なのですよね?」


クズリットは面食らった。


(なぜ、ここであいつの名前が出る?!)


ザワザワ。


フレイヤの姿を見た時よりも大人たちが騒ぎ始めた。


「なぜここであんな者の名前が?」

「ありえんぞ」

「奴は王子の中でも一番の無能だぞ」


雰囲気は一瞬にして変わった。

いじめていなくても、グランが無能ということは誰もが知っていることだ。


クズリットはいい流れだと思い発言した。


「フレイヤ様。グランはだめです。奴はとんでもない無能です。あんなやつと婚約すればあなたの汚点になる」

「え?そうなのですか?」


口元に手を当てて驚いているフレイヤ。


その顔にはじゃっかんの不愉快さが滲んでいたが、それでもさすがは王族である。


すぐにその不愉快そうな表情を隠した。


それからフレイヤは閃いたように言った。


「そこまで言われるのでしたら。では、あなたがたはグラン様より優れていると言うのですか?」

「もちろんでございます。我々兄弟はグランよりも数倍優れておりますよ」

「まぁ、そうなのですね。では、お力を見せていただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんでございますよ。フレイヤ様。必ずやご期待に応えて見せましょう!」

「では、お力を見せていただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんでございますともっ!」


クズリットがそう言うと周りの王子たちは口を開き始めた。


ボソボソと小さな声でお互いにだけ聞こえる声で。


「クズリット。第三王女はお前に譲ろう」

「その代わりにヘマをするなよ?」

「俺たち兄弟の名に泥を塗らぬようにな?」


クズリットはそれらの声に満面の笑みを浮かべた。


「もちろんですよ。兄様達。このクズリットにおまかせを。実はこの日のために仕込みをしているのですよ」


その言葉に答えたのは第5王子のクレスカスだった。


「ほう。クズリット、その仕込みというのはなんだ?」

「よくぞ聞いてくださいましたよ兄様。実はですね、これからフレイヤ様を連れて世界樹の森に行こうと思っているのですよ」

「なにをしに?」


「俺の力を見せつけに、ですよ。あの森ならモンスターが大量に出てくる。その数々のモンスターからフレイヤ様をお守りしながらモンスターを倒すのだ。すると、俺の強さにフレイヤ様もメロメロ、ということですよ」


「ふむ。なかなかイカスアイデアだな。だが仕込みというのはなんだ?それでは仕込んでいないようだが」


そこで「くっくっくっ」と笑うクズリット。


「森へはワイバーンで移動しますよね?」

「そうだな」


「ワイバーンに仕込みをしているのですよ、ワイバーン小屋に未教育のワイバーンを混ぜているんです。そして、そのワイバーンをフレイヤ様に近寄らせる。すると、ワイバーンは暴れ回る。そこを俺が華麗に助ける、という仕込みですよ」


「ほう。なかなかいい仕込みだな」

「ありがとうございます。クレスカス兄さん」

「だが、ワイバーンが突然暴れだしてお前はどうやって止めるつもりなのだ?」


そう聞かれてニヤッと笑ったクズリット。


胸ボタンを指さした。


「これは小型のボタンになっています。これを押せばワイバーンは気絶するようになっています。ワイバーンにだけ機能する魔法が発動するのです」

「素晴らしい作戦だな」


そこで作戦の会話は終わる。


クズリットはクレスカスを見て言った。


「では、さっそくフレイヤ様と行ってきますよ」

「待てクズリット。俺も行こう」

「いいんですか?」

「万が一があるだろう?失敗すれば目も当てられない。お前を疑う訳では無いが、相手は王族だ。国際問題になりかねんからな」

「おぉ、ありがとうございます、兄さん」

「気にするな。俺とお前で必ずどちらかがフレイヤ様との婚約を取り付けるのだ」


2人は協力することになった。


そしてクズリットはフレイヤに声をかける。


「フレイヤ様?さっそく、力をお見せしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「はい!」


クズリット達はフレイヤに向かって歩いていった。


そのとき、他の兄弟達から最後の言葉。


「ヘマするなよ?お前ら」


その言葉にクズリットは笑って答えた。


「ははは、ご安心を。ヘマなんてやるワケがありませんよ。ご安心ください」


こうしてクズリットとクレスカス、それからフレイヤの3人は奇しくもグランと同じ目的地に向かうことになるのだった。


もちろん、このことは誰も知らない。

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