第3話
(婚約?冗談じゃない。俺がそんな面倒な事するわけないだろ)
俺は心の中でそう思いながら姫様に言った。
「馬車にお戻りを、案内の続きをさせていただきます」
「そうですわね。求婚はしかるべき場所で行いましょう」
お姫様は馬車の中に戻って行った。
俺は馬を先導してもう一度歩き始める。
我が家は広大な敷地があり、もちろん外来のお客様の馬車を止めるような場所もある。
俺はそこに馬を案内すると止めさせた。
そうしているとその場に別の執事が現れた。
別の王子の側近を担当している者だ。
その執事がこう言った。
「グラン様あとは我々が行います。ここまでで結構です」
「分かったよ」
俺はそう言うとあっさりと身を引くことにした。
その際後ろからぽつりと小さな声が聞こえてきた。
「あの無能王子がマトモな人生を送ろうと思えば、この方に取り入るしかないというのに、馬鹿なヤツだ」
ほんとうにぽつりと呟いたその言葉は執事のものだった。
(勝手にやっててくれよ。婚約だのなんだのなんて。俺を巻き込むな)
俺はそう思ってセバスチャンに言った。
「俺のことはもういい。セバスチャンは歓迎を手伝っていろ」
「はい。かしこまりました」
俺はここでセバスチャンとは別れて自分の部屋に戻ることにした。
俺が部屋に戻ると
タッタッタッ!
「ハッハッハっ!」
鼻息荒くした愛犬のドッグが俺に抱きついてきた。
「ドッグお前はいつもせわしないな」
頭を撫でてやるとしっぽをフリフリしていた。
ブンブンブンブン!
しっぽを振る度に音が鳴る。
それくらいの速度だ。
「よしよし」
頭を撫でて俺はそのときに気づいた。
「ん?なんか、毛並みが悪くなったな?」
「くぅん?」
俺から離れてその場に尻もちをついたような体勢になるドッグ。
ちなみにこいつはモンスターだ。
純粋な犬では無い。
たしか名前は【フェンリルモドキ】とかなんか、そんな感じだった気がする。
モンスターなのでこいつは普通のドッグフードというやつを食えない。
あとは毛並みの維持なんかをするのに特殊なアイテムが必要という面倒な奴なんだけど、愛犬のためなら俺はなんだってやる。
「あー、やっぱ毛並み悪いな」
頭から背中にかけて撫でてやっていたが、いつもならサラッとしているところがゴワッとしてた。
「これは……例のアイテム取りに行かないとダメだな。【千年樹の種】だっけな」
我が家から少し離れたところに千年樹の森という場所がある。
そこには樹齢千年の木があるんだけど、その木から取れる千年樹の種というのがすごいパワーを持っていて、それを食わせればドッグの毛並みだって良くなるのだ。
「取りに行かないとだめだな」
俺はそう言うとドッグに目をやった。
「そこで【待て】。いいね?」
「くぅん」
ドッグはお利口だ。
俺の言うことはなんだって聞く。
俺は廊下を歩いて目当ての場所に向かっていく。
目当ての場所というのは【騎士団】の詰所だ。
もちろん、俺たちは王族なので、いわゆる近衛騎士団というものを持っている。
そいつらは我が王城の一室を詰所として与えてもらっているわけだ。
詰所の扉の前に立つと、ノック。
「開いておりますが」
ガチャっ。
扉を開けて中に入ると騎士団の第3副団長であるアリア。
先ほども会った奴だ。
すごく真面目なやつだ。
今も眉間にシワを作ってなにかの作業をしていたらしい。
「これはこれはグラン様。先ほどは」
「あー、そういうのはいいよ」
アリアが本題に入る。
「こんなところに何の用ですか?」
「騎士団の持ってるワイバーンを借りたくてね」
この世界の移動手段としては地を走りたければ馬。
空を飛びたければワイバーンというのが一般常識である。
そして千年樹の森には空を飛んで行った方が早い。
そうそう。
千年樹の森だが、行くのは実に数年ぶりとなる。
1度行けば数年は行かなくていいくらいの種を拾ってくるからだ。
「あー、そうだ。空いてる騎士はいるか?一応王族が外に出る時は護衛が必要という決まりがあるからね」
「何かなさるのであれば私がついて行きましょうか?正直言いまして部下に王族の警護なんていう大役は押し付けられません」
「それで業務が止まらないのであればいいよ」
「かしこまりました。ではこちらへ」
鎧の音を鳴らしてアリアは廊下を歩いていく。
俺はそのうしろを歩いてると話しかけられた。
「ところで森には何の用なのでしょうか?」
「アイテム採取」
「私がいると言っても油断なさらぬように」
そんなこんなで庭まで向かおうと廊下を歩いていると、一室から声が聞こえてくる。
声が聞こえてきたのは大きな扉の部屋。
この部屋は
(あー【ホール】か)
貴族やいろいろな客人を招いてパーティなどを行う時に使う部屋である。
俺が入ったことは無いけど。
世界一こういう場所が似合わない男だという自負がある。
そこから声が聞こえてきた。
「私はとなりの帝国の国王の娘、第3王女のフレイヤと申しますっ!この国には婚約者候補を探しに来ました!」
あの女の子の声が扉の向こうであるこちら側まで響いていた。
(あぁ、この部屋で婚約者探しをやってるのね)
別の声が中から聞こえてくる。
「フレイヤ様!是非俺を!」
「いいや!俺と婚約してください!」
中からは俺の兄弟の声が聞こえてきた。
それから
「おいおい、ところでグランのやつはなんでいないんだ?w」
「あんな無能呼んだところで選ばれないんだから呼ぶ意味なーしw逆に俺達の優秀さを見て泣いちゃうよ」
そんな声が聞こえてきた。
(この声は、クズリットとクレスカス兄さんの声か)
ちなみにだが、俺をいじめている(つもりになっている)のはこの二人だ。
つもり、というのは俺はこいつらのいじめに付き合っていないからだ。
幻覚魔法を使っているので二人は妄想の中で俺をいじめてるだけ。
それにしても馬鹿だよなぁ、いつまでも魔法に気づかないなんて。
これは補足なんだが、クズリットとクレスカス以外の兄貴たちの俺への対応はわりと普通である。
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