第2話 来客を迎える
グランという男は世界一の無能と評価されている男である。
それは周知の事実である。
そして、そんな無能な男は不運にも生まれる先を間違えてしまったわけだ。
彼は王国の統治をしている王家の一族の子として生まれた。
生まれた時は神童と呼ばれていた。
指示をされた事はなんだって出来たしやれた。
グランという男はそういう星の元に生まれたからだ。
そしてそれだけ優秀ならば周りからの期待も人一倍にかかるというものである。
『将来はきっと大物になるだろう』
『将来は王位争いに参加するだろう』
周りの人間からはそう噂されていた。
それを知っていた俺はいつしか自分の力を隠すようになった。
理由はもちろん。
(王位争いなんてメンドウなものは、まっぴらごめんだな)
王になるということは国を納めねばならない。
そんな責任重大なポジションというのは死んでも嫌だ、というのが俺の気持ちだ。
だから、俺はいつしか自分の実力を隠すようになった。
そして、普通にやればできることもできないように振る舞うようになった。
するとどうだろう。
周りの期待は下がっていった。
そして評価もまた順調に下がる。
その結果俺は虐げられるようになった。
一族の恥として。
今もそうだ。
「ファイアボール」
俺に向かって飛んでくる火の玉。
魔法を使ったのは俺の兄、6男のクズリットという男である。
「逃げろ!虫けらのように逃げてみろ!」
そう言われながら俺は逃げていく。
サイドステップ、ジャンプ、色々な行動を挟みながら。
すると、どうだろう?
「ちょこまか逃げんなよ!無能のくせに!」
クズリットは怒ってきた。
注文の多い奴だ。逃げろといったり逃げるなと言ったりどちらかにしろよ。
「ちっ」
軽く舌打ちして俺は本来であれば避けられた魔法をわざと食らってやった。
いや、食らったように見せた。
【幻影魔法】
対象に幻覚を見せつける魔法である。
つまりクズリットは俺が今ファイアボールに当たった、と錯覚している。
「はーはっはっは!見たか!俺の魔法!泣いてみろ!」
俺は幻覚の中で泣いてやることにした。
「そうだっ!それでいいんだよグラン!お前は俺のサンドバックだからなぁっ!」
しばらくそうやって幻覚の中で遊んでいたクズリットだが、飽きてきたようだ。
「今日はこんなところにしといてやるか。お前と違って忙しいからな俺は。それに、今日はお楽しみだからな!」
そう言ってクズリットは家の方に戻って行った。
俺はため息を吐いてクズリットの背中を見送った。
完全に見えなくなったところで俺は【幻影魔法】を解除した。
執事のセバスチャンに声をかけられた。
「お坊ちゃま、お怪我はありませんか?」
「ないよ。セバスチャン」
俺は執事にそう答えた。
ちなみに、セバスチャンには俺がいじめられていても加勢するなと言っているので対応としてはこれで問題ない。
「申し訳ございません。クズリット様をお止めできず」
「いいよ。ノーダメージだから。お前の立場まで悪くする必要は無い」
「ですが」
「気にしなくていいよ。それ以上謝らなくていい。その気になればいつでも殺せる程度のやつだ」
それから俺は補足するように言った。
「あれでも王の候補だ。他の候補者がいつまでも存命すると決まったわけじゃないし、候補者は1人でも多く残しておくべきだな、俺が楽をするために」
「やはり王位には興味がないのですか?」
「ないよ。めんどくさいし。俺は気楽に生きたいだけだから」
俺はそう言いきった。
のだが、そのときだった。
セバスチャンの目が細くなる。
「坊っちゃま。俺はいつまで我慢しなくてはいけないのでしょうか」
涙を流しながら俺の両肩を掴んできたセバスチャン。
本来であればこのような行動は不敬な行動だが、こいつは感極まると普通にやってくる。
「俺は悔しいですよ坊っちゃま。坊っちゃまがナンバーワンなのにこんな泥水をすするような生活を送っておられるなんて」
「俺が選んだことだ。慣れてくれ」
「坊っちゃまぁぁあぁぁぁ……俺は悔しいですぞぉぉぉぉぉぉ……」
その場で拳で地面を叩き始めたセバスチャンだったが、どうしようもなかった。
そのときだった。
家の中から騎士団の副団長が出てきた。
副団長アリア。
白銀の鎧に身を包んだボインボインな姉ちゃんである。
近付いてくると俺の前で膝を着いた。
「グラン様。失礼ながらお耳に入れたいことが」
「なに?」
「王様より伝言がございます。客人を迎えてくれとのことですが」
「あー。分かった。王様には引き受けると言っておいてくれ」
「かしこまりました」
アリアは家の方に戻っていく。
俺それを見てセバスチャンに目をやった。
「行こうか」
「はいですぞ。坊っちゃま」
我が王城の敷地内と敷地外を繋ぐ扉の前までやってきた。
もちろん、王族が暮らす敷地に繋がる扉なので頑丈である。
両端には騎士が立っていた。
「これはグラン様」
俺に反応を示す騎士。
「開けてくれ。客人が来ているそうだ」
「はっ!」
騎士が扉を開ける。
すると、そこには1頭の馬が馬車を引いていた。
(高貴な人物ってわけか)
つい先日、と言っても昨日なんだが、高貴な人物に出会ったなってことを思い出していた。
まさか、昨日の今日でこんなに連続して高貴な人物に会うとは思っていなかったものである。
そう思いながら俺は馬に話しかけた。
「こちらへ」
「カンシャシマス。ヒヒーン」
ちなみにこの世界の馬はかしこくて喋ることができる。
だから馬車を先導するときは馬に話しかけるのが一般的である。
チラッ。
俺は馬の足に目をやった。
「あー、すみません。止まって貰えますか?」
「ドウシマシタ?」
「泥が付いたままだと怒るんですよね。ウチの王様が。落としていいですか?」
「ドウゾ」
俺はそう言われて魔法を使うことにした。
生活魔法【クリーン】。
水属性の魔法が馬の足を洗浄していく。
「しかし、すごい汚れですね」
「ハハハ。ぬかるみにウマッちゃいまして。ウマだけに」
「ウマいね。ウマだけに」
短くそう返答すると馬の足はキレイになった。
で、案内を再会しようとした時だった。
「そのお声は?!やっぱり聞き間違えではなかったのですね?!」
バカッ!
馬車の扉が急に開いた。
(ん?)
コツコツ。
足音が響く。
そこから降りてきたのは人だった。
(あっ……)
俺とその子の目が会った瞬間、女の子は口を開いた。
「またお会いしましたね!これは運命でしょうか?!」
そこにいたのは昨日会ったお姫様だった。
すると勝手に喋り始める。
「私この王城に婚約者を探しに来たのですが、あなたにしますっ!」
俺が口を開けてると、セバスチャンが笑い始めた。
「ひゃーはっはっはっは!お坊ちゃまの良さが分かるお方が来られたァァァァァっ!!!おぼっちゃまナンバーワァァァァァァァァンン!!!世界最強!」
セバスチャンのテンションがおかしくなっていた。
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