無能王子と馬鹿にされてきた俺、実は無能を演じていただけなんだが、隣国のお姫様の前で真の力を見せてしまい求婚されてしまう。

にこん

第1話 俺は無能

15歳を迎える子供には【神託の儀式】と呼ばれる儀式を行うのがこの世界の常である。

この神託の儀式では儀式を受ける子供がどんな能力を持っており、これから開花していくのか、そういったものを大雑把に把握することができる儀式である。


俺、グランもその神託の儀式をもちろん受けることになる。


この神託の儀式というのは言ってみれば人生の分岐路というものである。


神託の儀式でいい結果が出れば人生は安泰であり、悪い結果が出れば、まぁその後の人生もお察しだよね、という話である。


殆どの人間がこの神託の儀式でいい結果を出したいだろう。


しかし現実は非情なものである。


いくらいい結果を出したいと願ったところで才能なんてものは生まれつきのものであり、後天的に芽生えたりはしない。


つまり神に祈っても祈らなくても神託の結果というものは変わらないというわけだ。


(祈るだけ無駄だ)


と、言うのに周りではいい結果が出ますように、と神頼みする奴が後を絶たない。


ま、それだけ重要な儀式というわけだ。


周りを見ながら一人で達観していると神託の儀式を行っていた神父が俺を見た。


「グランくん。前へ」

「はい」


俺は答えてその神父の前に向かった。


俺と神父は教壇を間に挟んで向かい合うように立っていた。

教壇には学校のテストで使われるようなサイズの紙が1枚。



名前:

スキル:

適正:


レベル:




そんな文字が書いており、それ以外は無記名の紙である。


そして、神託の儀式は始まった。


「神よ。神託を与えたまえ」


神父がそう言った瞬間だった。


俺たちの間にあった神に文字が浮かんでいく。

これが神託の儀式によって出た結果というやつである。



名前:グラン

スキル:なし

適正:なし


レベル:1



俺はその結果を見てニヤリと口元を歪めたのだった。


グランという男は、


それでいいのだ。


王族の第7王子として生まれ、平凡な男なため周りの人間から疎まれる残念な人間。


俺の評価はそれでいい。



神託の儀式は少し家から離れた場所まで受けに来ていた。


そのためこれから家まで帰る必要があるのだが。

教会を出てすぐの事だった。


ブルっ。


尿意を感じて体が震える。


(トイレいくか、たしかあっちだったよな?)


俺はトイレの方へ向かうことにした。


その途中だった。


「はぁ……」


溜息を吐いてる女の子が見えた。


思わずそっちに目をやってみたのだが


金髪ツインテールの女の子だった。


どうやらどこかに向かっているらしいが……


(目をつけられないようにさっさと行ってしまおうか、俺が嫌いなのは面倒事とストレス。この場合この子との接触は面倒事に当たる可能性あり)


俺はそう思ってトイレの方に向かおうとしたのだが、


「そこのあなた」


声をかけられてしまった。


振り返るとすぐそこに女の子がいた。


はぁ……。


内心でため息を吐きながら話しかけた。


「なんでしょう?」

「トイレに行きたいのです。知っていたら案内して欲しいのですが」

「あー、それなら」


俺は女の子を連れて公衆トイレに向かおうとしたのだが、その前まで着いた時だった。


公衆トイレの前でたむろしていたガラの悪そうな奴らが見えてきた。


「なんですの、あいつら」


女の子がそう呟いた時だった。


男がこっちを見てきた。


「ジロジロ見やがって。なんだよ。見世物じゃねぇぞ?」


典型的な言葉を言いながら俺たちに向かってくる。


既に向こうはやる気満々だ。


(武力解決、だよなぁ。俺としても楽でいいけど)


俺は左手を前に突き出した。


腕を曲げて左手の甲を相手に見せる。


「なんだ?」


男が怪訝な目で俺を見てた。


「来なよ」


クイックイッ。


左手の手首をクイクイ曲げてみる。


つまり挑発である。


「君みたいなゴロツキ1%くらいの力を出して10秒あれば十分だよ。さぁ来なよ。手早く済ませたいんだ」


そう言うとプルプルと手を震わせ始めたゴロツキ。


「舐めやがってぇぇぇぇ!!!」


ダッ!


俺に向かって駆け寄ってくるゴロツキ。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!‎くらえ!パンチ!」


右手でパンチしてくる。


拳を引いた時点で攻撃は分かっていたので、突き出してくるタイミングに合わせて俺は左手でパンチを【パリィ】。


「なに?!このガキ?!マジかよ?!」


それから


「【ドラゴンファング】」


両手を使ってゴロツキの胸に両手の手のひらを使った打撃を与えた。


「ぐはっ……」


ゴロツキはその場でフラフラとし始めた。


「どうだ?効くよね?それ」

「う、動けねぇ……」

「そりゃそうだよ。そういう攻撃だから、さ。胸に与えた衝撃が三半規管まで伝わり、揺らし平衡感覚を失わせる。立っているのもつらいだろう?」

「うぐっ……」


膝を着いてその場で前に倒れたゴロツキ。


チラッ。


俺は取り巻きのゴロツキに目をやった。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!!!」


ゴロツキの仲間たちは逃げていった。


それを見て女の子は俺の横に来た。


「す、すごいですわね!あなた!」


そう言われて俺は女の子に言った。


「ここであったことは秘密で、ね」

「秘密?なんでですか?」

「色々あってさ。分かったんなら黙っててよ、ここでのことは」


俺はトイレに向かうことにした。


「じゃあ俺はトイレ行くから。君も漏れないように気をつけてね」

「も、漏らさないですよ。私は高貴な家の子供なんですから!」


そんなことを言っている女の子。


それから俺に聞いてきた。


「ところであなた、すごいですね。私の執事になりませんか?!」

「執事?」

「うん。ボディーガード。私の家は高貴な家だから将来は安泰です!」

「へぇ。どこの家?」


そこまで言うのだ。

俺でも知っている家の子供かも知れない、と思ったのだが。


「アイザック帝国の王家です。第三王女です!」



胸に手を当てて「えっへん」と言いたげな顔で言ってきた。


(あぁ、知ってるわ……)


っていうか知らない方が無理と言うやつである。


(隣の国のお姫様じゃねぇかぁあぁぁぁぁあぁあ!!!!)


俺は頭を下げた。


「これまでの無礼をお許しくださいお姫様」

「無礼だなんて思っていないですわ。あなたは強いです。だから私とは対等に接してください」


彼女はそれからもう一度言ってきた。


「私の執事兼ボディーガードになって欲しいんです」

「お断りしますよ。お姫様?」

「えぇ?!!なんでぇぇぇ?!!」

「俺じゃあなたとは釣り合いませんよ?お姫様。では」



俺は家に向かう馬車に乗り込むと今日のことを考えてた。


人生なんてものはラクしてなんぼだ。


俺はそう思ってる。


例え賃金低くても社会的地位が低くても、楽に生きれるのが一番いい。


だから


姫様の執事なんて責任重大な仕事は、死んでもゴメンなのだ!


ちなみに先程、信託の結果は何をしても変わらないとは言ったが、例外として唯一変える方法がある。


自分のステータスを抑える方法である。


俺はさっきの信託でステータスの数値を押えていた。


本当のステータスは



名前:グラン

スキル:女神の加護EX

ジョブ:全てに適性あり


レベル:9999



こうなっている。

俺の異世界転生特典はあまりにもチートだった。


こんなステータスを持って生まれた俺は初めは無双しようとした。


無双する度に周りからの期待が上がった。


『未来の王様も決定だな』

『天才じゃないか』


そんな声が聞こえてきた。

だから、俺は力を使うのを辞めた。


なんだか、未来が見えたんだよね。


使


だからやめた。


ちなみに、俺の前世はいわゆる名ばかりの管理職って奴だった。

賃金に似合わぬ責任を負わされて、奴隷のように働かされてストレスで胃に穴が空いて、やがて死んでここにいた。


だからこう思ってる。


(山も谷もない人生でいい。死ぬほどつまんない人生でいい。ただ、楽に生きて幸せになりたいって)


だから俺は全力で無能を演じている。

無能なら周りに期待されず、責任も負わされないから、気楽でいいのだ。


そして、俺はこの世界で掴み取るのだ。


死ぬほど退屈でつまんねぇ人生を。



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