第6話【クズリット視点】 恥をかいた


「こちらですよフレイヤ様」


3人は例のワイバーン小屋に向かっていった……のだが。そこには思わぬ人物がいた。


王家直属の騎士団である、近衛騎士団の副団長アリアだった。


近衛騎士団は王城の治安なども維持している。

王城で問題が起きればそれを解決するように動く。


なので、この時クズリットは焦っていた。


(なぜ、こいつがここにいるっ?!バレたのか?!俺の作戦が?!だが、なぜ?!)


そう思いながらもクズリットはアリアへと声をかけた。


「アリア、なぜ貴様がここにいる?」

「少し、問題が起きましてね」

「問題?」

「なにか、ご存知ありませんか?クズリット様」

「知らんぞ俺は何も知らん」

「そうですか」


クズリットは考えていた。


(それより、早くどこかに行かせないと、ワイバーン問題を起こせば俺が起こしたことがバレるかもしれない。とにかく、どこかに行かせる口実を作らないと)


そこで彼はフレイヤの存在を思い出す。


「アリア。ここにおられるのは隣国の王女フレイヤ様であられるぞ。その無粋な甲冑姿をいつまでも晒し続けるな恥知らずが」

「そうですね。お時間を取らせてしまい申し訳ございません」


そう言うとアリアは立ち去って言った。


(ふぅ、これでどうにかなったな。あとはワイバーンを使うだけ……)


クズリットは小屋の中に入ると猫耳の少女に声をかけた。


「おい。一番


「はいですにゃ」


猫耳少女は小屋の中にいた一匹のワイバーンを連れてきた。


それを見てクズリットは眉間に皺を寄せた。


(は?用意したのはこんなに人畜無害そうなワイバーンだったか?)


「ファ〜。むにゃむにゃ」


目の前にいるワイバーンはアクビをしている。


これではまるで、人に飼い慣らされたワイバーンだ。


(俺が仕込んだのは、凶暴なワイバーンだぞ?!何でこんなに無害そうなんだ?!)


クズリットは猫耳が間違えたのかと思って再度問いかけた。


「おい、一番安全なものを持ってこい、と俺は言ったよな?!」

「え?」


キョトンとする猫耳少女。


「こ、これが一番安全な個体ですにゃ」

「嘘をつけ?!これではないだろう?!」


そのときだった。


「あ、あの〜?」


フレイヤの声。


フレイヤが小屋の中に入ってきた。


クズリットは慌ててフレイヤに話しかける。


「フレイヤ様。お待ちください。この小屋は不衛生です。早くお出になってください」

「そうなのですか?中から色々と聞こえたので、気になって見に来たのですが」


彼女はそう言うとワイバーンに目を向けた。


「ふぁ〜。むにゃむにゃ」

「かわいいですね〜。アクビしてます〜」


ワイバーンに近寄っていくフレイヤ。


(このままでは作戦が台無しになるっ!えぇいっ!なんとでもなれっ!)


「フレイヤ様!危ないっ!(危なくねぇけど)」


ポチッ!


クズリットはボタンを押した。

その瞬間。


「ふにゃあぁぁあぁぁあぁぁ!!!!!」


小屋の中にいたワイバーンが全員気絶した。


「えっ?」


その光景を見て呆然としていたフレイヤ。


それから


「え?」


クレスカスすらも呆然としていた。


クレスカスは目線で訴えかける。


『何してんだよお前』

『し、仕方ないですよ』


目線でそう言い合っている兄弟。


しかし、そこでクズリットは強引に乗り切る方法に出ることにした。


「いや、危なかったですねフレイヤ様。もうすぐでワイバーンに襲われていましたよ」


そこで、クズリットは猫耳少女に目をやった。


「おい!世話役のお前!どういうことだ?!今王女様が襲われかけていたぞ?!」


フレイヤはキッとクズリットを睨んだ。


「なに言ってるんですか?!何もしてなかったじゃないですか?!あの子は!」


語気を荒らげていたフレイヤ。


「それに、自分の判断ミスをその猫耳の子に押し付けようとしているんですか?!あなたは?!」


そこでクレスカスは言った。


「クズリット、見損なったぞ」


心底見下すような目でクレスカスはクズリットを見下す。


クレスカスは一瞬にしてどうすべきなのかを判断したのだ。


(クズリットを売り、フレイヤの味方になろう)


そうすれば自分は紳士的な男として評価されるだろう、と。


「に、兄さん?!何を言ってるんだ?!今ワイバーンが」


パァァァァァァン!!!!!


クレスカスの強烈なビンタがクズリットの頬を殴った。


「寝言は寝てから言え。今のワイバーンは何もしていない。お前が何をしているのだ?クズリットよ。罪なきワイバーンに魔法を使いおって」

「そ、そんな兄さん……」

「貴様にはあとで処罰を与えよう。王族の面汚しのゴミめが」


その時だった。


表から凛と澄んだ声が聞こえてくる。


「今のお話、もう一度お聞かせ願えますか?クズリット様」


小屋の中に入ってきたのは近衛騎士団副団長のアリアだった。


「お、俺は何も知らんぞ?!アリアァ!」

「まるでワイバーンに暴走して欲しかったようではありませんか?今の感じは」

「な、何の話だ?!俺は何も知らんぞ!」

「先刻の話です。ワイバーンが暴走したのですよ」

「っ?!!!!」


クズリットの反応はもうごまかせないほどの驚きようだった。


「ちょうど用がありましてね。ここに来たのですよ。すると暴走したんですよねワイバーン。これはいったいどういうことなのでしょうね?」


「王族命令だ!この件に深入りするなぁぁぁ!!!処刑してやるぞ?!騎士ふぜいが!お前のクビなど俺の命令一つで飛ぶぞ?!」


叫んだクズリット。


しかし、そのとき「あはははっ」とアリアは笑っていた。


「クズリット様。実はね。王族命令として『この件を調査せよ』と言われているんですよ」

「誰にだ?!」

「グラン様ですよ。よって、その命令は聞き入れられませんね」


「まぁ、グラン様♡」というフレイヤの呟きは、クズリットの叫びによってすぐに消えることになった。


「グランンンンンン!!!!おのれー!!!!無能の分際で俺の邪魔をしおってぇぇぇぇ!!!」


クズリットは叫んでいたが、フレイヤも叫び返した。


「やっぱり、グラン様がナンバーワンですっ!」


このとき、クレスカスは完全に身の振り方を決めた。


この後のことも考えてどのように行動すれば一番自分に有利なのかを割り出した。


「王族命令である。アリア。クズリットを捕縛せよ。こいつは安全の義務を破り、国家反逆の罪がある。安心せよ。王族に手を出す罪は不問としよう」

「仰せのままに」

「おのれ、クレスカスゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」



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