第19話 魔力の存在証明

 ぼくは魔力がなんなのか理解できなかった。

 ロイから借りた本には魔力はどこにでもあるものとして書かれているが………………一体それはどこに存在しているのか?

 ぼくが魔法使いになれるものとマリーは思っているのかもしれないが、魔力すら感知できないぼくにそもそも魔法が使えるのかどうかさえ不明だ。


「なら、良かったわ。あなたは将来魔法使いになりなさい」


「………母様。ぼくは…………魔力がなんなのかさえ分かっていません。ですから魔法使いになれるかどうか………………」


「いいえ、ユリウス。あなたは魔法使いになれるわ」


「なぜ………そう思うのですか? 母様」


「ユリウス、あなたは4歳のとき2週間で文字の読み書きをマスターしたわ。私はあなたにほとんどなにも教えなかった。あなたはもともと賢い子で、私が最低限のことしか教えなくても、どんどん先へと進んで行く。それは魔法に関しても同じ。きっとすぐに魔法が使えるようになるわ」


「それは………………」


 …………違う気がする。

 

 ぼくが文字の読み書きを比較的早い段階で習得することができたのは………ぼくが異質な存在だったからだ。

 転生者で前の世界の記憶を持っている。

 そしてこの世界に産まれたときからマリーとジルの話す言葉を理解していた。

 どういうわけか知らないが話し言葉なら意味を汲み取ることはできた。

 それがあったから………2週間で文字が読めるというような芸当がたまたまできたんだ。

 けれど今回は違う。


 ぼくは魔力すら実感できないのだ。

 

 魔法基礎論第二章にはこう書かれている。


『…一般的な魔法使いは幼少期のころから自分の魔力を感知することができる。才能がある者は周囲にある魔力を感知し、ごく稀ではあるが、誰かに教えられるわけでもなく魔法を使うことができる…』


 つまり———ぼくには魔法の才能が……………


「———いいえ、ユリウス。あなたには魔法の才能があるわ」


 マリーは自信に満ちた顔をしてぼくをしっかりと見据えていた。

 まるでぼくの悲観した思考を打ち消すようにマリーはぼくを見ていた。


「ユリウス、そんな顔しないで。あなたらしくもない。今、あなたは自分を信じていないわね」


「母様…………どうして、それを………………」


「あなたは時々考えすぎるところがあるわ。それですぐに結論を出してしまう。よく表情に出ているわよ? 賢いあなたはいつも現実的に物事を見ているようだけれど………これだけは覚えていて、あなたは自分で思うよりもずっと特別な才能を持っている」


「母様……………さすがに、それは言い過ぎでは?」


「いいえ、ユリウス。今から一緒にそれを証明しましょうか?」


 …………証明? 


「ちょっとこっちに来なさいユリウス」


 マリーはそう言った。


「さあ、手を貸して」


 マリーの線の細い手がぼくの小さな手に触れる。


「じゃあ目をつむって」マリーは小さな声でそう言った。


 ぼくらは両手を繋いでしばらくの間、瞼を閉じたまま沈黙する。

 

 ………一体、なにが始まるのだろう?


 そう思ったときだった。


「——えっ」ぼくは無意識に声を漏らしていた。


 ————なんなんだ、これは⁉


 ————体の中になにかが入り込んでくる。


 ————これは……………


『ねえ、ユリウスあなたには魔法の才能がある。だって今、あなたは魔力を実感しているでしょう? 私の魔力、そしてあなたの体内にずっと前から存在し続ける魔力。あなたの体の内側で魔力が存在しなかったことは一度もない』


 ————瞼を閉じたぼくの耳にマリーの声が響く。


『ほら、感じて。これが―――——』



  ………………………そうか。



  これが——————


 

『———————————魔力』



「母様…………これが魔力なんですね」



 ぼくはこの世界に生まれてからやっと「魔力」を感知していた。

 

 それは同時に、今いる世界が根本的に前の世界とは違うのだと、そうあらためて再認識させられる瞬間だった。

 

 なぜなら、魔力なるものはずっと絶え間なく、体の内側で、心臓の鼓動のように、たしかに存在し続けていたのだから。


 

 ぼくが気づくその瞬間まで——―

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