第18話 魔法基礎論
ロイから借りたアーネルの魔法の書——その本は『魔法基礎論』という本題だった。
意外とシンプルな本題だが————内容は難しく、ぼくは理解するのに苦労していた。
1週間もかけて読んでいるが、なかなか読み終わらない。
………きっと頭の中を整理する必要があるのだろう。
ぼくは自室にこもって、ハーブティーでも飲みながら、この世界の魔法について思考を巡らす。
その本によると、この世界には「魔力」なるものが存在しているらしい。
……………まりょく? …………魔力。
それは、眼で視認することができないエネルギーのようなもので、人間の体内に流れている。そして、それを感じ取ることができなければ「魔法」は使えない。
微弱ではあるが、その辺に落ちている石ころやどこにでも生えてる雑草や空気にも魔力は流れているらしい。
……………まったく、実感ができないが………………。
果たして、それをどうして感じ取ることができるのか?
魔法基礎論第一章にはこう書かれている。
『通常、魔力を感知できない者が魔力を感知できるようになるためには、自分以外の魔力を体内に流入させる必要がある。他人の魔力を体内に含ませることによって、今まで意識してこなかった自分の魔力に意識を向けることができるようになる可能性がわずかにはある』
…………な、なるほど
どうやら、可能性があるだけで確実ではないみたいだな。
でも、とにかく、魔力を体内に流してもらう必要があるのだろう。
ぼくは………カウール村で魔法を使える者を一人しか知らない。
それは———ぼくの母であるマリー・ウィンスフィールドだった。
要するに、マリーに頼まなければいけないのだ。
………………ぼくに魔力を流してください、と。
この世界の魔法を理解すためにも……………
ぼくは行くしかないだろう、マリーのところに。
◇◇◇
————マリーのところにやって来た。
「母様、ぼくに魔力を流すことはできますか?」
ぼくは何気なくといった調子をこめてマリーにそう尋ねた。
だが、マリーはあっけにとられたように沈黙する。
「…………ユリウス」
マリーは長い間ぼくを見つめる。
何か間違ったことを言っただろうか………………
詳しくは知らないが、マリーはもともとジルと結婚してから、カウール村に来る前は修道女であったみたいなのだ。
もしかしたら…………魔力を流す行為はなにかしらの禁忌に触れるのかもしれない。
………………や、ばい?
しかし、それは思い違いだったみたいだ。
「ユリウス、ようやく魔法を学ぶ気になったのね!!」
急にぱっと明るい表情を見せるマリー。
「ええ、まあ。ロイから借りた………………」
「私はずっと待っていたの。あなたが魔法を学びたいって、自分から言うのを」
「ええ、ロイから借りた本に魔力を…………」
「まあ嬉しいわ。ついにこの時がきたのね!! ようやくあなたに魔法を教えることができる!!」
「………………」
………どうやら、マリーはもともとぼくに魔法を教えたかったみたいだな。
なら……………もっと前から聞いとけば良かったかもしれない。
マリーが昔、教会に従事していて、そこで魔法を学んだと言っていたから、あまり軽々しく魔法を教えてなんて言えないと思っていたけど、違ったみたいだ。
カウール村の村人たちも魔法についてあまりいい意見を持っていなかった。
マリーもこの村では、最低限しか魔法は使わない。
主に守衛隊が怪我をしたときマリーの魔法がそれを治癒する。
だから、この村の守衛隊は今もなお持続的に負傷者を出すことなく活動し続ける。
この村の防衛力の維持に重要な役割を担っているマリーに子供の好奇心で魔法について安易に尋ねるはやめようと思っていたが、考えすぎだったみたいだな。
「………ジルには剣を習うのに、私には魔法についてなにも聞かない。あなたは戦士の道を選んだのかと思ったけど、違ったのね?」
マリーはそう言った。
でもぼくは別に戦士を目指しているわけじゃない。
カウール村でずっと日がな一日を過ごしていると段々やることがなくなってくる。
ようやく行き着いたのがジルに剣を習うことだった。
「ええ母様、ぼくは別に戦士を目指しているわけではありません。父様がかっこよかったから。ぼくもそうなりたいと思っただけです」
ぼくはそう言った。ジルがかっこいいのは噓じゃない。
それはこの村の者なら誰でも知っているだろう。
ジルが魔物を切り裂く瞬間を……ぼくは知っている。
でも、戦士になりたいとは思わない。
だって………怖いじゃん、魔物。
「なら良かったわ、ユリウス。あなたは、将来魔法使いになりなさい」
………………え?
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