第16話 贈り物それは自己認識
ジャックスのせいで
まだ————
ぼくらの誕生日パーティーは始まっていなかった。
ぼくとロイの6歳の誕生日パーティー。
そして———それはようやく、始まろうとしていた。
テーブルの上にはもう料理が並んでいる。
窓の外はもう暗い。
家の中のいくつかの蠟燭がいい感じの雰囲気を演出している。
……………お?
……………誕生日パーティーぽっいぞ?
ぼくはさっそく自分の席に座ろうとしたが———
「………お兄ちゃん、ユリウスお兄ちゃん」
ノーラが声をかけてきた。
「どうした? ノーラ」
ぼくはそう言った。
だが、ノーラは恥ずかしそうに目をそらす。
彼女はなにかを背中に隠している。
なかなか次の言葉を言わない。
そして———————
「お兄ちゃん………少ししゃがんでくれないかな?」
ノーラはためらうようにそう言った。
「…………ああ」
ぼくは言われるがままにしゃがんだ。
それから頭の上をもぞもぞとするノーラ。
なにやら、何かが頭の上にのせられたらしい。
「よっし、これで大丈夫かな?」
ノーラはぼくの頭の上を見ると満足そうに、そう言った。
「ユリウスお兄ちゃん、これで、確認してみて」
ノーラはそう言って、ふつうの手鏡を渡す。
ちなみにこの世界では鏡は比較的、高価なものに値する。
おそらく、マリーからこの手鏡を借りてきたのだろう。
ぼくは………鏡を見てみる。
そこには———————
ユリウス・ウィンスフィールドの顔が写っていた。
そう、ぼく自身だ。
…………思えば、この世界に来てから、自分の顔をあまり気にしてなかったように思う。
生きることに夢中だったせいだろう。
あまり、自分がどう見られるかなんて気にしてこなかった。
まあ、この村で外見を気にしてもしかたがないだろう。
ここは———田んぼしか取り柄のないカウール村だ。
だが………そんなことは関係ない。
ぼくは始めてだったのかもしれない。
自分の顔をこんなにはっきりと鮮やかに見たのは……………。
人間はは自分の顔を自分の眼で直接、見ることはできない。
光の反射を通して、なにかを媒介にして、ようやく間接的に視認することができる。
しかし、それは光の屈折が描いた像にしか過ぎない。
果たして、それは
…………そんなことを考えてしまうほど、ぼくは気が動転していた。
信じられなかったのだ。
自分の顔が—————
ごく自然に、ごく当たり前のようにそこにあったのが。
そして、頭の上には花が咲いている。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
気がついたら素っ頓狂な声をあげていた。
「どうしたの⁉ ユリウスお兄ちゃんっ⁉」
心配するノーラ。
「………いっ、いや、なんでもない」
ぼくはあわててごまかす。
そうしてもう一度、おそるおそる自分の顔を見てみる。
それはどちらかと言うと平凡な方へ部類されるような顔立ち。
この村では珍しい金髪であることが唯一の取り柄と言えるかもしれない。
残念ながらそれ以外はまったく取り柄がない。
どこにでもあるような平凡な顔をしている。
————しかし、それは紛れもなく、ぼくの顔だった。
これが………ぼくの顔か。
なぜか、ふつふつと感情が沸き起こってくる。
ああ………ぼくはユリウスなんだ。
ユリウス・ウィンスフィールドなんだ。
…………これは、馬鹿みたいなことかもしれないけど
でも、自分が自分であることに………………
今、この瞬間、どうしてか嬉しく感じられる。
……………だが、なぜか頭の上に花が咲いている。
マリーとノーラがさっき隠れて何かしていたのはこれだったのか。
それは、アシュタネルの像に咲いている花々を、円を描くようにして、丁寧に編み込まれた花の冠だった。
「お兄ちゃん…………なんだか、嬉しそうだね」
「え? …………ああ」
この世界に来てから6年間、いろいろあったけど………………
………………ようやく、実感が湧いてきた気がする。
自分がユリウス・ウィンスフィールドだってことに。
「—————ありがとう。ノーラ」
「どういたしまして。ユリウスお兄ちゃん」
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