第15話 世界の常識、村の常識
——————
そこにはもう、今回の誕生日パーティーの参加メンバーがずらりとそろっていた。
ノーラの父(ジャックス)とノーラの母。ロイの両親。ジル、マリー。そしてジルと仲の良い何人かの村人たち。
彼らは、なにやら大人同士で、ぼくらが帰ってくるのを待ちながら、世間話でもしていたみたいだった。
「あら、お帰りユリウス。花は摘んでこれた?」
そう言うのはぼくの母マリー。
「ええ、
ぼくは
「じゃあ、行こうかしら。ノーラちゃん」
マリーはとつぜんそんなことを言った。
「…………はいいっ!」
ノーラはなぜか緊張したようにマリーに返事する。
————そして、ノーラとマリーはどっかに行ってしまった。
…………なにをするつもりなのだろう?
しばらくして、彼女たちは帰ってきた。
そして、何事もなかったかのように、すました顔で、台所で料理をはじめる。
どうやら、二人で今日の誕生日パーティーのご
…………ぼくは興奮する。
マリーは誕生日になると、いつも美味しい料理を作ってくれる。
だから、待ち遠しくてしかたがない。
ノーラが手伝いをしているのも
そんなことを思っていると————
———————
なぜか、ニヤニヤしている。
一体、彼はなにを考えているんだ?
「ユリ~~ウス。大きくなったな。どうだ、調子は?」
肩を組むようにして、話しかけるジャックス。
体からは、かすかにアルコールの匂い。
どうやら、もう飲んでいるらしい。
なにかと村に
とてもノーラの父親とは思えない。
「どうだ? ユリウス…………うちの娘は?」
とつぜんそんなことを言うジャックス。
彼は台所で手伝いをしているノーラをチラリと見る。
どうだ……? とは、どういう意味だろう?
「ユリウス、お前もわかっているはずだ。ノーラはいい花嫁になる」
…………なるほど、そういう意味か。
「お前がその気になるなら、俺はお前に娘を任せたい」
彼はとつぜん、そう言った。
ぼくとジャックスの眼と眼が交差する。
数秒間、ぼくらは停止した。
………まるで、瞳のなかに隠されている本質を見抜くように。
————ジャックスは、ぼくを見ていた。
「えっ………」ぼくは、
そして、急いで言葉を続ける。
「ジャックス……………まだそういうのは早いんじゃないか?」
「まっ、たしかにな。お前まだ6歳だったな。ガキだ」
彼はあっさりとそう言った。
………前にもこんな話があったような気がする。
………………………………………………………。
「ユリウス、お前、俺の後継者にならないか?」
「えっ………後継者?」
「ああ、田んぼの守り神になるんだよ」
「いや…………そういうのは…………まだ…………………」
「なるほど? どうやら、お前にはまだ色気が足りないみたいだな」
「……………え、色気?」
「田んぼの魅力を理解するには、大人の色気が必要なんだ」
「………………う、うん?」
「お前、モテないだろ?」
「えっ………………………べつに?」
……………そんな感じだ。
…………きっと、ジャックスにも色々考えがあるのだろう。
でも…………ぼくらはまだ子供だ。
結婚なんて早くないか?
ノーラはまだ5歳で、ぼくも6歳になったばかり。
前の世界の常識からすると、さすがに5歳と6歳が結婚の約束をすることはないだろう。
………でも、それは前の世界だからなのかもしれない。
前の世界の常識とこの世界の常識は似ているところもあるが、違うのところのほうが多い。
それに、ぼくらの暮らしているこの村は
村人同士で知らない人はいない。
だいたいみんな顔見知りだ。
だから、早いうちに決めるのかもしれない。将来のことを。
それに、ジャックスはぼくを買いかぶっているふしがある。
だから…………かもしれない。
ぼくとノーラが結婚すれば、娘が幸せになるって、そう本気で思っているのだ。
でも———そんなことは分からない。
村の常識がどうであれ、これから、ぼくらに何が起こるかなんて、誰にも分からないはずだ。
だから——それは、まだ先の話なのだ。
「よっしー、ロイにもこの話をしようかな? 見る目のないませたガキは置いておいて」
……………おい?
……………ジャックス?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます