第14話 火属性の魔法

 6歳になった。


 どうやら、今日は誕生日パーティーなるものが開かれるらしい。


 ………はて? たしか、ぼくの誕生日は3日前に過ぎているような?


 この世界では、誕生日というものはあまり重視されないらしい。

 たいていの者は自分がいつ生まれたのかわからないからだ。


 なので、誕生日の日にパーティーをするのは珍しいのことなのだ。


 ロイの誕生日が5日後、ということもあって、ぼくらの誕生日パーティーは二人まとめて行うことになった。


 ぼくらはマリーに「ユリウス、みんなと花をんで来てくれる?」と、頼まれた。

 

 どうやら、パーティーのかざり付けに使うらしい。


 ぼく、ロイ、ノーラはアシュタネルの像がある森に向かった。


 花をが咲いているとこなんて、あそこしかない。




 ——————アシュタネルの像にやって来た。


 パーティーまで時間があるので、ぼくらはそこで、いつもやっているように、木漏こもれ日ごっこをした。


 つまり、なにもしない。

 ただ、草のうえで寝そべっているだけだ。


 しばらくのあいだ、時間はゆっくり流れる。

 ここに来るとほんとうに、心がやすらぐ。


 ————と、ふいにノーラがたち上がって、どっかにいってしまう。


 ノーラはアシュタネルの像のまえにたって、じっと女神像を見据みすえていた。

「なにしてるノーラ?」

 ロイはそう言った。


 だが、返事はない。

 ぼくらはノーラがいる方へ近づいた。


 アシュタネルの像にはたくさんつたからみついている。

 そのせいで、アシュタネルの像にはどこかしら哀愁あいしゅうのようなものがただよっていた。


 ノーラはその太くて長い蔦をひっぱり始めた。

「んんーーー! んっーーーーーーーー!」

 蔦はびくともしない。


「なにしてる? ノーラ」

 ロイはあきれたように言った。


「女神さまがかわいしょうでしょ? んんーーー! んっーーー!」

 なおも、ひっぱり続けるノーラ。


「しかたねえ、ユリウス、ぼくらも加勢かせいするぞ!」


「ああ、そうだな」


 そうして、ぼく、ロイ、ノーラは女神像にまとわりついた蔦をはがすべく、三人で綱引きにせいを出すのだった。


————しかし、びくともしなかった。


「はあ………はぁ…………。…………ぜんぜん動かないな」

 ロイは疲れたようにそう言った。


 アシュタネルの像は4メートルから5メートルはある。

 蔦はうえの方まで伸びて絡みついているいるのだ。

 だから、なかなかそれを取り除くのは難しいだろう。


「ぼくに火属性の魔法が使えたらなーー」

 ロイがそう言った。


 ……………ん? …………火属性の魔法?


「ロイにぃ、そんことしたらダメだよ! 女神さまが燃えちゃうじゃない!」

 ノーラはそう言った。


「なに言ってる? ノーラ……この女神は石でできているじゃないか?」


「それでも……! かわいそうだよ………!」


「いいや、こんな蔦がまとわりついている方が、かわいそうだ!」


「だめ! …………燃やしたら、いやだ!」


 どうやら、喧嘩がはじまったようだ。

 ここで、仲裁ちゅうさいして置かないと、このあとの誕生日パーティーに響くかもしれない。

 

「ロイ、火属性の魔法は使えないぞ?」

 ぼくは言った。


「ユリウス………それは、なぜだ?」


「もし、火属性の魔法なんか使ったら、この森に火が移ってしまう。そしたら、火事だ」


 火属性の魔法とやらがなんなのか、知らなかったが、とりあえずぼくは現実的なことを言った。


「たしかに! 気がつかなかった。 ユリウス………お前、天才か?」

 ロイはあっさりとそう言った。


「ユリウス兄、天才! ロイ兄、より天才!」

 ノーラははしゃぐようにそう言う。


「ノーラ…………………………、言ったな?」

 ロイはそう言うと、ノーラのほっぺを両方からつねった。


「いたたたたたたた! ………………たすけてユリウス兄!」

 ノーラは助けを求めたがぼくは何もしなかった。


 ただの子供のじゃれあいだ。


—————それから、ぼくらは花を摘んで家に帰った。

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