第11話 収穫祭

 田んぼしか取り柄のないカウール村。


 そんな村に唯一ゆいつイベントらしいイベントがあった。


 それが収穫祭である。


 村の人たちが、いままでなんのために、汗水垂らして働いていたのか、それが報われる瞬間だった。

 しかし、それと同時に村の今後を決める一大事でもある。


 なぜなら、われわれの村が壊滅かいめつするか発展はってんするかは、この収穫祭で決まるからだ。


 この田んぼは一見して、なんの面白味もない平凡な田んぼだ。

 しかし、この村はこの田んぼに経済的な意味で依存している。


 われわれの村は、田んぼで収穫した特産品を、ほかの村や都市と交易こうえきしたり、通貨に変える。


 そして次の収穫祭まで、ぼくらは商業取引のようなものを、まったくしなくなる。

 ぼくらは収穫祭が終わったあと、ずっと客であり続ける。

 たまにやってくる商人から食べ物や日用品を買うことしかできない。

 となりの村からなにかを取り寄せることもある。

 そして、少しずつ村人たちのたくわえが擦り減っていく。


 ようするに、この収穫祭で失敗すれば村は壊滅するのだ。


 しかし、安心して欲しい。


 われわれにはジャックスがいる。

 なんたって、ジャックスは膝を裏側に曲げることができるからな。


 ジャックスがこの村に来たのは今から15年も前のことらしい。

 そして、ジャックスが来てからこの村の田んぼは収穫量を日に日に増していく。

 だめになってしまった田んぼを立て直したり、効率的で効果的なルーティンを組んで村人たちの指揮をとったり。

 そして、害虫を追い払い、天候を味方につけて、田んぼを維持してきたジャックスは、まさに経済的な意味で田んぼに依存しているこの村の希望だった。


 この村の希望、ジャックスはこう言う。

「俺は運がよかった。子供のころに気づいてしまったんだ。自分の才能に………………。あのとき、膝が裏側に曲がるって知ったとき、俺は不可能なんてない、そう、思えた」


 ………………ところで、話は変わるが、われわれは田んぼから何を収穫しているのだろう?


 ぼくは17歳で転生したために、そこらへんの知識は薄かったが、一般的に田んぼと言えば、いねを収穫するもので、稲とは米の原料ではないか?


 ぼくはこの世界に来てから、まだ米を一度も口にはしていない。


 では、この田んぼは何を収穫している?


 さっそくこの村の希望に聞いてみよう。


 希望はこう言った。

「パンの原料だ。お前……いつも食べてるくせに、知らなかったのか?」


 ジャックスは呆れたようにそう言った。


 パンの原料………ということは、これは稲ではなく麦?


 浅い知識のぼくからすると、この植物は緑色をしているから、麦には見えない。


 そのあと、いろんな人たちにこの田んぼが何を栽培さいばいしているのか、それは稲なのか麦なのか、はっきりさせようとしたが、なんの成果も得られなかった。


 もしかすると、この世界と前の世界では根本的に植物の性質が違うのかもしれない。 

 これは麦でも稲でもない。ぼくはそう結論を出していた。


 


 そして———収穫祭が始まる。


 大人たちは、汗水垂らしてその植物を収穫していった。


 ぼく、ロイ、ノーラはそれをただぼんやりと眺めていた。


 大人たちは、田んぼから倉庫へ、田んぼから倉庫へと行ったり来たりしていた。


 そして、日が暮れる。


 この村の唯一のイベント収穫祭は、そのようにして幕を閉じたのだった。


 ………………あっけない。

 …………もっとなにか、あるかと思った。

 

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