第7話 お主のことはずっと見ている
4歳になった。
さいきんはよくマリーに本の読み聞かせをして貰っている。
この世界のことが少しずつわかってきて楽しい。
「ユリウス、今日も一緒に本を読みましょうね」
マリーはそう言って、ぼくを抱きかかえるように膝にのせて、絵本を広げる。
本の内容はだいたいなにかの伝説や神話のようなものだ。
どこかの強い勇者が龍をたおしたとか、どこかの魔法使いが魔物の群れを蹴散らしたとか、そういう話ばっかりだった。
しかしその話を聞いていると、あることに気づく。
——ぼくは文字が読めない。
そう、ぼくは文字が読めない。
転生してからずっといままで気がつかなかった。
マリーやジルが話していることは理解できる。だが文字になってしまうと、なにかの記号にしか見えない。
文字を見てもなにも感じない。
ぼくは軽いショックをうけた。
はじめてこの世界に来てから悔しいという感情を抱いた。
そのころのぼくはたしかに前の世界の人格を保持していたが、からだが幼児であるためにこころも幼児っぽくなっていたのだ。
だから、なのか?
とてつもなく悔しい。
泣きそうになってしまっていた。
その記号の羅列をじーっと見ても、強く目に力を入れても、なにが書いてあるのかまったくわからない。
でも、ぼくは我慢強く涙をこらえた。
そして言った。
「ママ、読めるようになりたい!」
——————————————―
それから2週間後。
以外なことだがぼくはあっさりと読み書きができるようになっていた。
マリーの読み書きの訓練がはじまると、自分の持っているこの世界の言葉に対する感覚がどんどん鮮明になっていくのを感じた。
ぼくが読み書きをある程度できるようになったことにマリーとジルが気がつくと、ふたりは絶句していた。
しかし——次の瞬間にはお祭り騒ぎだった。
「ユリウス! まあ! あなたって天才じゃないの!」
「ユリウス! お前・・・・いぁや、さすが俺の子だ!」
だが…….ぼくは少し焦る。
たしかに読み書きができるようになって嬉しかった。それをマリーとジルにほめられるのも。
…………けど、本当にこれでよかったのだろうか?
自分が普通の人とは違うという側面をそう簡単に見せてしまって。
けれど、そんなことは気のせいだと考え直すことになる。
そのあとのパーティーでマリーが作ったミートパイがあまりにも美味しかったからだ。
……………久しぶりに生きててよかったと思えた。
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