第6話 時系列上の喪失点

 3歳になった。


 そのころになるとぼくは自分でスプーンを持って食事をしたり、服を着替えたり、トイレに行くことができるようになっていた。

 いままではすべてマリーとジルにやって貰っていたのだ。


 だんだんこの世界にも、この生活にも慣れてきた。


 しかし何かが引っかかる。


 ぼくには死んだときの記憶がある。

 だがそれは時系列を失ってしまって、自分がどのタイミングで死んだのかが曖昧だ。


 死んだタイミングが曖昧であるならば転生したタイミングもまた曖昧であるのだ。


 ぼくはどのようにして転生したのだろう?


 気づいたときには暗い道路沿いを歩いていて、気づいたときには空中を回転していた。

 そして気づいたとき、死んでいた。


 そのあとなにが起きたのかはわからない。


 気づいたらもうこの世界にいたし、もう3歳になってしまった。


 ぼくはこれからどんどんこの世界に馴染んでいくだろう。


 そしてこの世界にとって普通の存在として生きていくのだ。


 ならば、ぼくが転生者であることがどれほど重要なことなのだろうか?


 誰も、ぼくが転生者であることは知らない。

 知るよしもない。


 ぼくの名前はユリウス・ウィンスフィールド。

 片田舎の村に母マリーと父ジルと暮らしている。

 3歳になって、ようやくおもらしせず起き上がることができるようになった。

 ぼくはそういう存在だ。

 それ以上でも、それ以下でもない。



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