第5話 異世界か、現実か
2歳になった。
そのころには、ぼくはもう歩くこともできていたし、まだつたなくはあったけれど喋ることもできていた。
ジルは朝早くからでかけ、夜暗くなる前に戻って来る。
「パパ、いつもどこいってる?」
そう質問してみた。
「パパはね、この村の
「しゅえい?」
「そう、しゅえい。村を魔物から守るお仕事なんだ」
村を魔物から守る・・・?
魔物とはあの魔物だろうか?
ぼくはこの世界を完全には理解してはいなかった。
産まれた時からぼくはこの世界の言葉をなぜか理解はしているのに、言っている意味はわかるのに、なぜそういう意味になるのかがわからない。
言いたいことはわかる。おそらく魔物とはなにかしらの脅威のことだろう?
しかしそこには具体性がなかった。
彼らの喋る言葉にはなにかが抜け落ちている。
まるで空中で見えないものをつかんだりふりはらったりする感じだ。
それはおそらく、ぼくが転生者だからだろうか?
ぼくの持っている現実に対する考えと、マリーとジルが持っている世界観には大きな違いがある。
それはとても大きな溝で、ぼくはまだそれを埋め合わせすることはできない。
ある日、ジルは大けがをして帰ってきた。
その日は大雨で風も強く吹いていた。
いつもの時間にジルは帰ってこなかった。
マリーは家のなかを行ったり来たりしていた。
しばらくその状態が続いた。
マリーはやがて深いため息をついて、テーブルの上に突っ伏した。
そして—————ダァン!
強くなにかがぶつかる音が家のなかに響いた。
マリーはあわててドアを開ける。
すると、そのドアに寄りかかっていたらしいジルが家の中に倒れこんで来る。
「まあ! ジル! ジル! これはどうしたのジル! 起きてジル!」
マリーはパニックになっていた。
ジルはいたるところから血を流していた。
「うぐああああ」
それはとても小さな声で弱々しいジルの声だった。
それを聞くと、マリーははっとしたかのように表情を変える。
「なにやってるのかしら、私ったら」
彼女は決心したようにジルに向かって手を広げる。
「女神よ、わられは
風が吹く。
家のなかはほの明るい光に包まれた。
そして、ジルの傷がみるみる修復される。
「ありがとう、マリー」
まだ弱々しい声だったけれど、さっきより生気がある。
「もう、ジルたったら」
ふたりはお互いを確かめあうかのように抱きあう。
ぼくはその光景をただ呆然と見ていた。
は?
今、なにが起きた?
それは———ぼくが初めてこの世界で魔法に出会った瞬間だった。
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