第4話 転生者としての自覚
ぼくははいはいができるようになった。
そして、はっきりとわかって来たこともある。
いままでなんとなくわかったつもりでいた。
けれどそうじゃなかったんだ。
それは1歳の誕生日。
マリーとジルと一緒に始めて外に出ることになった。
いままで家の外には出たことはなかった。
家の外は田んぼがただ広がっているだけの質素な景色だった。
ジルは農家ではないことは見ればわかるので、これは誰か別のひとの所有地なのだろうか?
しばらく歩き続けると大きな森が見えてきた。
太陽があたたかい日差しを地面に投げかけていた。
こもれびの道をしばらくの間、歩いた。
もっともぼくはマリーに抱かれていたが。
そして、ようやく————
「やっと、ついたな」
「ええ、そうね」
マリーとジルは視線を上の方に上げた。
そこには像があった。
見たところ4メートルから5メートル近くはある大きな像だ。
なにか宗教的な意味のある像なのだろうか?
なんとなく女神の像といった感じだ。
「ユリウス、言いかい。これは女神アシュタネルの像だ。われわれをいつも見守ってくれている。女神アシュタネルはお前に力を与える」
「そうよ、ユリウス。女神アシュタネルに祈りを捧げましょう。そうすれば、ご加護がもらえます」
一体なにを言っているのだろう?
マリーとジルのこの神妙な感じを見るのははじめてだ。
だから少し戸惑う。
ぼくはどうすればいいのだろうか?
やがて、マリーとジルは目をつむった。
ぼくも同じように目をつむった。
そして—————浮かび上がってきたのは前の世界にいたころの記憶。
なにげない記憶だった。
中学時代、ぼくは一つ上の先輩に思いっきりぶん殴られことがあった。
そういえば好きでもない女の子と一度だけなぜかデートしたんだった。
ああ、あいつ。ぼくのランドセルを泥沼の中に投げてしまったんだよな。
そうそう、バイト帰りのあのコンビニ限定の焼き鳥みたいなやつおいしかったな。
・・・あれ? あの映画見たよな。大好きだったアニメのスピンオフ。
あれ、おもしろかったなあ・・・・・・。
そうだ、ぼくの名前は
そしてみさきちゃんが大好きだった。
いままでなんでこんなことを忘れていたんだろう?
ぼくは17年間、日本で育った。
アニメをみてゲームをして学校に行っていろんなことにうんざりしたり楽しんだりしていたのに、ぼくはすっかり忘れてしまっていた。
もう、ぼくはもとの世界には戻れない。
進み続けるしかないんだ。
この異世界で。
やっと自覚することができた。ぼくは転生者。
前の世界では井上祐樹だったけれど———今は違う。
ぼくの名前はユリウス・ウィンスフィールド。
この世界で生きていく。
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