第3話 まだ彼は異世界を理解していない

「べろべろばあ~。ほ~ら、パパですよ」


 若い男の声が聞こえる。


「あらら、パパったら。ほ~らママですよ~。おっぱい飲みましょうね~~」


 若い女の声が聞こえる。


 なにかに包まれている感触とあたたかさ。

 そして口の中に広がってくる満足感。


 そしてぼくはまどろみ、眠る。


「べろべろばあ~。ほ~ら、パパですよ」


 若い男の声がする。


「あらら、パパったら。ほ~らママですよ~。おっぱい飲みましょうね~ー」


 若い女の声。


 そして突然襲ってくる不快感に思わず、ぼくは泣き叫ぶ。


「おぎゃあ~ おぎゃあ~ おぎゃあ!」


「あらら、もらしちゃいましたねー」


 そういうと若い女はぼくの下半身をもぞもぞと動かす。


 そして、まどろみ、眠る。


 そんなこんなの繰り返しだった。

 最初はなにが起きているのかわからなかったけれど、だんだんわかってきた。

 僕は17歳の男子高校生じゃない。

 ぼくは赤ちゃんなのだ。


「今日もご機嫌ですね~ ユリウス」


 そう声をかけるのはぼくの母、マリー・ウィンスフィールド。


 少しベージュっぽい金髪をしている。体は細く、目は切れ長。ものすごく美人だ。


「ほ~ら、たかいたかい。大きくなったらパパと一緒にベルフェ迷宮に行こうな」


 なにやらぶっそうなことを言っていそうなぼくの父、ジル・ウィンスフィールド。


 やさしそうな顔だちをしているが、体のがたいはよく、左の目じりに傷がある。


「パパったら、なにを言っているの? この子は戦士になんかにならず、魔法使いになるんだから、ベルフェなんかいく必要はないんだよ?」


「なに言ってる、マリー? ユリウスはな、戦士になるんだぞ」


 また、始まった。


 この会話はなんども聞いてきた。

 ぼくが戦士になるか、魔法使いになるか、それが議論の中心だ。


 しかし、戦士ってなんだ? 魔法使いってなんだ?


 この時の僕はまだ自分が異世界にいることを理解していなかった。


 戦士とは文字通り戦士であり、魔法使いとは文字通り魔法使いなのだ。


 ここは剣と魔法の異世界。


 そして、ここはみさきのいない世界だった。





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