第2話 転生する前から後ろ、そのはざま

 気がつくと僕は白い空間にいた。


 いや、なにかがおかしい、


 体の感覚がない。


 足はどこにある? 手はどこにある?


 それでも僕のこころは落ち着いていた。


 だが、首をまわして景色を変えようにも、それがなぜかできない。


 ずっと無限に広がる、白い空間のようなものがただずっとあるだけ。


 少したって、これが視覚情報ではないことに気がついた。

 これは眼で見ている光景ではない。


 僕はおそらくだが空間自体になっているのだ。


 あるいは空間が定義することができない、なにかしらの中途半端な存在としてあたりをただよっている。


 上も、下も、右も、左も、無い。


 ただ意識があるだけ、そんな感じだった。


 そこへ、何かがやって来る。


「ほほほ、そろそろかのー。状況に慣れてきたかのう?」


 おじさんの声が意識に広がって来る。


「いやはや、お主もついておらんなー」


 なにを言っている? おじさん。


「お主が死んだあと、2週間後みさきちゃんは彼氏と別れたのじゃがな。まだチャンスがあったのにのう。これだから人間は。すぐに結論づけてしまって、自分を弱らせてしまう。そして死ぬのじゃ」


 みさきちゃん? 死ぬ?

 一体何を言っているのだろう?

 なにか、ものすごく受け入れがたいことを言われているような気がしていた。


「おやおや、あまり理解しておらんみたいじゃな。まだ状況に慣れてはおらんかったか?」


 僕はみさきちゃんが好きだった。

 でもみさきちゃんには彼氏ができて・・・・・それで・・・・。


「さて、お主が状況に慣れるのを待ちながら、さっそく仕事にとりかかるかのう」


 おじさんの声が意識に響いてくる。

 しかしおじさんの姿や顔を見ることはできない。


「少しひどい言い方かもしれんが、これはお主の大事な記憶と感情、そして魂のつながりを確認するためのものじゃからの。わしの言い方がキツくても気にせんでくれ。お主の感情を煽る必要があるのじゃ」


 そうだ、僕は暗くなった道路沿いで・・・・・。

 あ、あ、あ、そうか。

 死んだんだ。


「おや、気づいたかの?」


 ああ、気づいた、僕は死んだ。


「そうじゃ、お主は死んだ」


 そうか僕は死んでしまった。

 もうみさきちゃんには会えない。


「そうじゃ、お主はもうみさきちゃんには会えない」


 おじさんはさっき言いましたよね。

 2週間後にみさきちゃんは彼氏と別れるって。


「ああ、そうじゃな。まだチャンスがあったというわけじゃ」


 それなのに僕は暗くなった道路沿いを・・・。


「まあ、そうじゃなあ。しかし、別にお主は悲しんでおらんのじゃないか?。死んだことにも、みさきちゃんのことにも」


 たしかに。あまり悲しくはない。なぜかひどく落ち着いてる。


「それは死んでもなお、お主という存在が自分の存在を実感しているからじゃ」


 おじさんの声がだんだん遠のいていく。


「お主の魂番号6482916282はいまだ消滅することはない」


「お主は無になったわけでも死体になったわけでもない」


「結局のところ、お主はつまらない死にかたをしてしまったわけじゃが———」


「以外なことにもお主は数奇な運命にあるようじゃな」


「お主は死の直前で、次の世界を見たのだ」


「お主はみさきちゃんのいない世界を見たのだ」


「それはお主の意志じゃ。覚悟じゃ」


「魂番号6482916282——————————」




「いってらっしゃい」

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