勇者の仮面
「俺を裏切るつもりも、傷つけるつもりもないとしても……俺は考えてしまうんだ。俺を捨てて何処かへ行ってしまうんじゃないかって……」
「そんなことしないっ!」
そして、それは
「そうだよな……姉さん達はきっとそう言うと思ってた。
「っ……」
———私は
「俺は前世でも一人で生きてきた人間だった。分かってるだろ? 母親が居なくたって、俺は生きていけるって」
「そ、それは———」
「別に、姉さん達の愛情を無下にするつもりはない……けど必要もない。俺は勇者として、
淡々とした口調で言い切る
何も言い返すことができなかった
どうして……どうして、まだ15歳の彼がそんな悲しいことを言わなければならないのか……
「ごめんなさい、
「……どうして
「あなたの実母の代わりではないけれど……大人としてあなたに謝らなければならないと思ったの。子供にそんなことを言わせてしまうなんて、保護者失格だわ……」
「そんなの、俺は前世から———」
「違うでしょう? あなたは、高校生の……15歳の少年の、
「
「あ…………あれ……? 俺、なんで……」
かつて
なぜ俺は自分で自分を『勇者』だと……?
違う、俺は勇者なんかじゃない。
いや、でも俺が
なら、俺は一体……
「落ち着いて、
「んっ———」
俺の内心を見透かしたのだろうか。
頭を抱えて俯く俺を、
それがとても優しくて、とても暖かくて……
……なぜだろう、とても落ち着く。
「あなたは母親に頼れないと分かった時から、自分を偽るしかなかったのよ」
今世の『
『
『勇者』は『
『母親に捨てられた』という事実から、目を逸らすために。
でも……
「もう戦わなくてもいいのよ、
「俺は戦ってなんか……」
「ううん、あなたはずっと戦っていたのよ……『弱い自分を見せたくない』と、自分自身の心と、ずっと」
「…………」
「でも、もうその必要もないわ。私が母親に代わって……いえ、
「お……俺は……」
「えぇ、大丈夫よ。なんでも言って? 私はあなたの母親なんだから」
「俺は……褒めてほしかった……抱き締めてほしかったっ……! 母さんの暖かさが、ずっとほしかった……!」
涙と言葉が、一緒になって溢れ出る。
それは紛れもない、『
「えぇ、えぇ……それでいいの。今までよく頑張ったわね……」
代わりに溢れてくるのは、もっと撫でてほしいだとか、このまま抱きしめていてほしいだとか、子供じみた感情ばかり。
でも、母さんの優しい声が、暖かさが、
あぁ……勇者という仮面を被らないことで、これほど心が軽くなるなんて———
♢♢♢♢
「落ち着いたかしら?」
「あぁ、もう大丈夫だ。ごめん、取り乱しすぎた」
「ううん、むしろ甘えてくる
あの後、しばらく4人に包まれて泣いていた俺は、
今は共有部屋で、
「思い出すとめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……みんなのこと、信用していいんだよな?」
「当たり前じゃない。今日みたいに甘えてきたら、ギュッとして撫でてあげるわよ?」
「じゃあ、私は毎日
「ん~……じゃあ、さなはお風呂の手伝い?」
「それは勘弁して……」
冗談のようだけど、3人はきっと本心からそう言っているんだろう。表情を見れば分かる。俺が求めれば、求めるほど彼女達は応えてくれるのだろう。
「でも、今まで通りの生活をしてたって、
「それは……」
言葉だけなら、
俺が欲しいのは、『決して捨てられない』という、確かな証拠……なのかも知れない。
「……できないことないけど」
「え……?」
「ごめんね、
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