心の奥に潜む何か

「三人とも、加賀人かがとに本当に信頼されていますか?」


「「「っ!?」」」



 剣哉けんやが口走ったその一言に、3人の表情が変わる。


 それはそうだ。

 ただの友人であるこの男が、よりにもよって『信頼されているか?』などと……頭に血が上るのに、十分すぎる発言だ。



剣哉けんや、どういうつもりかしら?」


新那にいな、落ち着きなさい」



 気が付けば、新那にいな剣哉けんやの胸倉を掴んでいた。剣哉けんやを睨む彼女の目は、とてもただの少女とは思えないほど鋭いものだった。


 麗那れいなに諭されて、新那にいなはようやく手を放す。が、剣哉けんやを睨むその目は、いまだ厳しいものだった。


 そして、それは落ち着いているように見える麗那れいなも同じだった。



「そんなことを言った理由が何かあるのでしょう?」


「あぁ……俺は一応、加賀人かがとと中学からの仲だからな。中学の頃から多くの女子に告られてたのは知ってるんだ」



 ただし、加賀人かがとは今現在に至るまで誰とも付き合ったことがない。


 もちろん剣哉けんやが告白される度に聞き出しているわけではない。何度も告白を売り返されるうちにうんざりしていた加賀人かがとが、剣哉けんやに愚痴っていただけだ。



「あいつ、めちゃくちゃモテるからさ、まぁ理想が高いんだろうなって思ってたけど……あなた達と出会った後も変わらないって変だと思ったんだよ」


「……単純に加賀人かがと君の好みに合わなかっただけじゃなくて?」


「いや、あなた達はすごく魅力的な女性だし……加賀人かがとのことが好きなんだろう?」


「えぇ、大好きよ」


「当たり前じゃない、そんなの」


「うん、お兄ちゃん以外いないってぐらいに」


「そ、即答……まぁともかく、これだけ魅力的な女性と一緒に暮らして好意を寄せられて、それでも靡かないって……おかしくない?」


「それは……」



 なんとなく思っていたことだった。


 私達は、他の女性と比べてもかなり魅力的だと自負がある。

 それでも加賀人かがと君の方から手を出してくれないのは、『家族だから』だと……『私達が前世で敵対していた悪魔だから』だと思っている。


 少し寂しいけど、加賀人かがとの言う通りだ。



「スカすのがカッコいいとか思ってるイキりオタクぐらいしか、そんな反応しないと思うけどな。普通の高校生なら、そういう関係・・・・・・になっていなくても、もっと楽しそうにしているもんだと思うんだけどなぁ。だって、新那にいなさん達でダメなら、もうあいつの理想を叶えられる女性なんていないだろ」


「なら……あなたから見て、加賀人かがとには何があると思うの?」



 剣哉けんやは、加賀人かがとが前世の記憶を持っていることは知らないはず。私達が、そして加賀人かがとが『前世の影響だ』と片付けたこれ・・を、一般人はどう捉えるのだろうか。



「あるとすれば、加賀人かがとの両親……産みの親が離婚した理由が関係してるんじゃないか?」


「「「!!」」」



 正直に言うと、その発想はなかった。

 私達と出会ってからずっと、加賀人かがとは『両親の離婚』について何も言わなかったからだ。


 それどころか何らかの影響があるなど微塵も思わせず、普通に暮らしてきた。


 でも……確かにそうだ。

 客観的に見れば、加賀人かがとはただの15歳の少年。

 幼いころの親の離婚が、全く影響がないわけがない。


 出生が特殊だから、その可能性は勝手に排除してしまっていた。



「だから、最初に三人に『信頼されてるのか』って言ったんです。もしかしたら加賀人かがとは、その影響で他人を信用しないようになっているかもしれないですから……加賀人かがとの父親から、そのあたりの話は?」


「いえ、何も……ただ、『お父さんが母さんを怒らせちゃって、仲直りできなかったんだ』って……」


「確かにちょっと悲しそうな顔してたけどね……」


「まぁ、そのあたりの詳しい話なんて、自分の子供に話すもんでもないですしね」


「あなた、色々と知ってるのね……」


「一応、加賀人かがとの親友だと思ってるんで。まぁ、親友止まり・・・・・なんで、それ以上は家族・・のあなた達に任せますよ」



 けど……と、剣哉けんやは私達の目を見てはっきりと口にする。

 どこか他人事ではない、悲痛な表情を浮かべて。



「あいつが心の底から笑っている場面を見たことがないんすよ、俺も。どこか他人と一線を引いて、距離を取って……絶対にただ事じゃないし、親友にそんな顔させるあいつの母親が許せない」


「……あなた、いい人ね」



 友人の事を思ってそんな表情ができる人が、悪い人なわけがない。



「ね……ゆいちゃんがあなたを好きになるのも納得だわ」


「……こんな美人にそう言われるなら、悪い気はしないな……」


「何か言ったかしら?」


「何でもないですよ。さて、そろそろ戻らないと加賀人かがとに怪しまれるんで、話はここまでにしましょうか」


「えぇ、ありがとう剣哉けんや君。他の男と違って、あなたは信じてもいいかもしれないわね」


加賀人かがとを心配してくれるんだもの。良い人に決まってるわ」


「特別に『剣哉けんやお兄ちゃん』って呼んであげるね?」


「はは、それは光栄だ」



 剣哉けんや君のおかげで、加賀人かがとの心の奥にある何かの存在に気づくことができた。


 必ずしも剣哉けんや君が言った通りではないだろうけど、一度腹を割って話をする必要はありそうだ。

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