閑話 その1

まえがき


目指せ★1000


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 中野なかの 真凛まりんは、自室で一人頭を抱えていた。

 原因は、通知の止まらないスマホ。


 先日ショッピングモールにて加賀人かがとに会った際、加賀人かがとの姉を名乗る女性と言い合いになり逆上。


 その時の写真を撮り、『友達を遊びに誘っただけなのに関係ない女が突っかかってきた』と被害者意識満々でSNSに乗せたのが終わりの始まりだった。



 どうやら一部始終を動画で取っていた人がいたようで、モザイクをかけて誰か分からないようにした動画が複数アップされ、事の顛末は判明。


 真凛まりんによる暴言や暴力も明らかになり、一気に炎上したのだ。

 投稿を消しても一向に収まる気配がない。



『人殴っといて最初の投稿で被害者面してるのヤバすぎる』

『小学生の女の子放っておいて一緒に遊びに行こうはさすがに人間性疑うわ』

『どう見てもお前の方がブスで草』

『勘違い女ってなんでこう揃いも揃って自分が被害者だと思うんだろう』



 真凛まりんに向けて書かれたほんの一部のコメントだが、どれもが真凛まりんを咎めるものばかりであった。


 私はただ遊びに誘っただけで、向こうから突っかかってきたのには間違いないのに。

 どうして自分ばかり攻められるのか。

 本当に意味が分からない。


 そんな考えが、ぐるぐると頭の中を巡る。



 そんな時、急にスマホの着信音が鳴り響いた。相手は真凛まりんが付き合っている相手、秋良あきらであった。


 真凛まりんは助けを乞うようにすぐに応答する。



「ねぇ秋良あきら、聞いて! マジでありえな———」


真凛まりん、俺ら別れようぜ』


「———はっ?」


『無理だと思ったからさ。原因は……まぁ分かるだろ?』


「まさかあれ・・のこと!? あれは向こうが———」


『いや、俺と付き合っていながら節操なしに色んな男を誘うのも前からムカついてたけどさ、手ぇ上げるのはありえなくね? そんな奴だとは思わなかったわ』


「っ……それはっ」


『客観的に見ても向こうのお姉さんの方が正しいし、女の子が可哀そうだろ』


秋良あきらも向こうの女の方が良いとか思ってるわけ!?」


『良いとかどうとかじゃなくて、都合が悪くなったら暴力に走る人間性を言ってんの。分かる?』


「はぁっ!? 意味わかんない!」


『ならいいわ。もう連絡してくんなよ? じゃあな』


「待っ———」



 ブツッと、一方的に電話が切られる。

 その後何度電話をかけ直しても繋がることはなく、メッセージが既読になることもなかった。



「マジありえないんだけど……あの女のせいで……」



        ♢♢♢♢



 とある大学の食堂にて。

 ゴールデンウイークも終了し、気怠けながらも賑わいを見せているこの場所の一角に、より一層気怠い雰囲気の三人組が駄弁っていた。



「なぁ、見たかお前ら?」


「当たり前だろ。見るなという方が無理だ」


「マジで講義に集中できねぇ……」



 休暇が終わってすぐの講義ということもあり、大勢の生徒が集中力散漫になっているのは事実。だが、三人にはそれ以上に講義に集中できない原因があった。


 それは……



「「「如月麗那きさらぎれいなさんが可愛すぎる」」」



 なんともくだらない理由だった。



「入学当初から思ってたけど、改めて見たら何あれ? 本当に同じ人間か? エルフの王女様とかじゃなくて?」


麗那れいなさんと一緒に講義を受けることができているのを幸運というべきか、それとも集中できなさ過ぎて不幸というべきか……」


「つーか、ゴールデンウイークのちょっと前ぐらいからか? すげぇ雰囲気柔らかくなった気がするんだけど」


「あー、それ俺も思った」


「確かに、それまで美人すぎて近寄りがたい雰囲気あったけど、急に変わったよな」


「美しさに可愛さがプラスされて、魅力が倍増してんだよなぁ」


「ほんとそれ。そのせいで全く面識もない他学科の奴からも告られて本人は迷惑してそうだけど」


「住んでる世界が違うから成功するわけないのに……ワンチャン狙いが多すぎな」


「まぁあの美貌だから、誰のものにもならないって安心感があるよな」


「……でもさ、急に雰囲気変わった原因考えると、彼氏ができたって考えるのが妥当じゃね?」


「そうなんだよな……誰だよマジ、麗那れいなさんと付き合えるとか羨ましすぎ……」


「まぁ、例の動画の人じゃね。モザイクかかってるけど、あの白い髪の人は麗那れいなさん説濃厚だし、後ろにいた男がそうじゃねぇかな」


「確かに背高そうだし、イケメンオーラムンムンだったな」


麗那れいなさんと知り合えるとなるとこの大学の生徒って考えるのが妥当だけど……」


「大学内だとそんな気配一切見せないんだよな、麗那れいなさんって」


「いや、まだ彼氏ができたと決まったわけじゃない。俺は諦めんぞ!」


「「どう考えてもお前じゃ釣り合わんだろ……」」



 麗那れいなの容姿に関しては学年、学科を問わず広まっており、この三人のように憧れる男子が後を絶たない。


 彼らがもし、麗那れいなが想いを寄せる相手が高校生で、しかもすでに同棲している上に彼女の方から毎日のように迫っているという事実を知ったら……



 麗那れいなの熱愛が判明し、このキャンパスが阿鼻叫喚の地獄絵図に包まれるのは、そう遠くないのかもしれない。

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