お兄ちゃん、優しくしてね……?

「おはよう、加賀人かがと


「お、おはよう」



 翌日の朝、キッチンに降りてきた俺を迎えたのは、エプロン姿の新那にいな麗那れいなだった。麗那れいなは火を扱ってるからか手が離せない様子だ。


 新那にいなの、髪を後ろで縛ったことで晒されたうなじや、薄いピンクのエプロンとその上からでもはっきりとわかるスタイルの良さに思わず視線を吸い込まれる。



 ……いつも通りの新那にいなにしか見えないけど、昨日の夜———


 いやっ、待て待て待て!

 そんなこと気にするな俺!

 昨日新那にいなああ言った・・・・・からといって、実際にしてたとは限らないし……そんなの気にしてたら変態だと思われる……!


 むしろ、こうやって俺を惑わす新那にいなの作戦か?

 だとしたら完全に手玉に取られてるな……



加賀人かがと、どうかした?」


「い、いや、なんでも……紗那さなは起きてないのか?」



 ずいっと体を近付け、顔を覗き込んでくる新那にいなから目を逸らす。

 近っ……ちょっ、胸が当たってるんだが!?



紗那さなはまだ起きてきてないね……加賀人かがと、起こしてきてくれる?」


「分かった、ちょっと様子見てくる」



 とりあえず理性が残っている間に、俺はそそくさとその場を後にする。

 こんな生活、クラスの奴らは羨ましがるだろうけど……俺の理性はあと何日持つのだろうか……。



        ♢♢♢♢



紗那さな、起きてるか?」


「んっ……」



 紗那さなの部屋のドアをノックすると、中から微かに声が聞こえてきた。

 起きてはいるようだけど……なんか元気がなさそうな声だ。



「入るぞ?」



 そう一言断って部屋の中へ。

 柔らかな明るい色調と、どこか甘いようないい匂いに包まれ、思わずドキッと心臓が跳ねる。


 女の子の部屋に入った経験なんてなかったからつい……。


 当の本人はというと、パジャマ姿のままベッドの上でぽーっとしていた。ほんのりと頬が赤く染まっていて……



紗那さな、もしかして体調悪い?」


「んっ……身体熱い……」


「ちょっと待ってろ、何か飲み物と体温計持ってくる」













「38.0度……ちょっと高めかしら」


「あらら、せっかくのゴールデンウイークなのに……」


「ぅ~~……」


「一応父さんと母さんには連絡したから、今日はゆっくり休むしかないな」


加賀人かがととの生活が楽しくて、寝るのが遅くなってたもんね……そんな生活が続けば体調も崩すわ」


紗那さな、食欲ある? お粥か何か作ってくるわよ?」


「うん、ちょっとだけ食べる……」


「分かった、少し待っててね」



 部屋を出ていく麗那れいなを見送りつつ、頼りになるなぁと漠然と考える。

 少しでも栄養を取っておいた方がいいし、麗那れいなの料理なら風邪をひいている時でもおいしく食べられるだろう。



「ご飯できる前に着替えないとね? 紗那さな、寝てる間に結構汗かいたでしょ。ほら、お湯とタオルも持ってきたから」


「じゃあ、俺はその間に薬でも探してくるよ」



 さすがに着替える場所に俺が居るわけにもいかない。

 紗那さなの着替えは新那にいなが手伝ってくれるとして、ひとまず俺は部屋を出ようとする。


 が……



「お兄ちゃん、待って……」


「えっ……」



 服の裾を摘まんだ紗那さなに止められてしまう。

 今から着替えるんじゃ……?



「お兄ちゃんがいい……一人にしないで……?」


「うっ……」



 上気した頬、小さな口から漏れる熱い吐息、そして涙目になって甘えてくる紗那さなの様子に、今までとはまた違う感情が湧いてくる。


 なんだろう、この守ってあげたくなる感じは……。


 いや、冷静になれ。

 それでも男の俺がやるのはアウトだろ。



「そっか、じゃあ私が薬探してくるから! 加賀人かがと紗那さなの着替えよろしく! ちゃんとタオルで身体拭いてあげなよ?」


「えっ、待っ……早っ!」



 一目散に部屋を出ていった新那にいなを止める隙もなく、部屋に取り残された俺は紗那さなと二人きりとなった。


 はぁ……なんか麗那れいな達は俺を狙っているというより、俺をドギマギさせて楽しんでるように思えてくるな……。


 頭が痛くなる感覚を覚えつつ、なぜか顔を綻ばせる紗那さなから熱い視線を感じる。



「仕方ない、このまま放っておくわけにもいかないし……悪いな紗那さな、なるべく見ないようにするよ」


「見ても大丈夫だよ、お兄ちゃん……脱がして……♡」


「言い方に気をつけなさい!」



 俺が叱っても全く意に介してなさそうな紗那さなは、俺に背中を預けてご機嫌な表情だ。さすがに向き合った状態で服を脱がせるほどの勇気はなかったから、背中側から……



 首細っ……髪さらっさらでいい匂い……肌白くてきめ細か……


 いかんいかん、油断するとすぐそっち・・・に意識が持ってかれる……。

 いくら受け入れてくれているとは言え、紗那さなは小学生だからな。



 しかしまぁ……



「お兄ちゃん、優しくしてね……?」



 輝く金糸の髪を邪魔にならないように両手で掻き上げて待機する紗那さなの姿に、年齢以上の女性の魅力を感じてならない。



 絞ったタオルで、背中から紗那さなの身体を拭いていく。

 紗那さなの身体は柔らかく、簡単に傷つきそうで……力加減が分からないけど、紗那さなが気持ちよさそうにしているから、多分これでいいのだろう。


 ……これは病人を看病しているだけ。

 変な気は起こすなよ、俺。


 指先に感じる小さな膨らみと紗那さなの艶めかしい吐息を意識の外に追いやり、俺は無心で紗那さなの身体を拭き上げた。



「終わったぞ」


「お兄ちゃん、まだ下が残ってるよ……?」


「いやっ、俺がそこまでするわけには……おい脱ぐな脱ぐな!」


「む~……だって汗かいたままだから気持ち悪くって」


「っ……せめて下着はそのままで……」


「汗かいちゃったから替えたいんだけど……」



 そう言いつつ、俺の制止も聞かずに全部脱ぎ捨てる紗那さなに、俺は慌てて顔をそむける。


 前言撤回。

 今日一日すら、俺の理性は無事で済むのだろうか……。



        ♢♢♢♢



「お兄ちゃん、ありがとう! まだちょっと熱はあるけど、だいぶ良くなったよ!」


「それはよかった……」



 その日の夕方ごろ、朝と比べてかなり顔色が良くなった紗那さなには、明るい笑顔が戻っていた。ただの風邪のようだったし、それほど酷くならなくてよかった


 いや、疲れたよ本当に……主に精神的に。

 『食べさせて』とか、『寝かしつけて』とか、ここぞとばかりに甘えてくる紗那さなを相手に、俺の理性はよく耐えてくれたよ……。



 元気になってきたとはいえ、体調は万全じゃない。

 明日も様子を見つつ、大事をとって家で休養になりそうだな。









 と考えていた翌日。

 今度は俺に風邪が移ったようで……


 発熱で頭がぼーっとする俺を、麗那れいな新那にいな紗那さなの3人はここぞとばかりにお世話しにかかる。



 ゴールデンウイークで色々と遊びに行ったりもしたけど、俺の世話をしている時の3人が、今までで一番楽しそうだった。




─────────────────────

あとがき


土日で私自身が風邪を引きまして、その勢いで書きました……


またちょっとストック増やすために更新遅くなります(_ _)

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