もしや、ストーカー?

 何やらご機嫌な新那にいなに手を引かれつつ、付いてくことしばらく。


 なんでも、麗那れいな紗那さなと一緒には行けない場所だとか。

 あれだけ仲がいい二人と一緒ではダメだなんて、珍しいこともあるもんだな……。


 そんなわけで来てみたんだが……



「ここって、コスプレ用品の店?」



 新那にいなに連れられて来た店内には、俺も知ってるアニメキャラの衣装をはじめ、ウィッグなどのコスプレグッズが所狭しと並んでいた。



「そうよ。意外だったかしら?」


「まぁ……実際こういうことには縁がないもんだと思ってた」


「あんまり頻繁にやってるわけじゃないけど、これでも結構人気あるのよ? SNSに上げると怖いぐらいにバズるのが面白くて……」


「いや、それはそうだろうよ……」



 新那にいなが見せてきたスマホの画面には、ちょっと露出が高めの悪魔っ娘衣装に身を包んだ彼女の姿があった。


 元々がとんでもない美少女だ。

 そんな彼女が本気でコスプレしたら、現実離れするに決まっている。


 この写真の衣装も、地味に前世の『エイリア』だった頃のものに似せてるし、メイクとか表情とか……前世の彼女を思い出して俺もドキッとしたぐらいだ。



 コメントを見る限り、新那にいなの美貌が完璧すぎて、実在しない人物だと信じている人が複数いるようだった。



「それはそうって……加賀人かがとも可愛いって思ってくれたってことだよね?」


「……なんでコスプレを?」



 ここで下手に返答したら、上げ足を取られて攻められるに決まっている……!



「可愛いって言ってほしかったんだけどなぁ……」


「ぅぐっ……」


「まぁいいけど……別に、これといったきっかけはないけどね? SNSとかで流れてきたのを見て気になって、私もやってみたら楽しかったって感じ」


「そんなに行動力があるタイプだったっけ」


「前世では一歩引いた感じだったけど、今世はもっと自分らしく生きたいなって」


「あー、なるほど。その気持ちは分かるわ」



 俺も勇者をやっていた前世では、正義のために奔走し多くを犠牲にしてきた。『次は自分らしく』っていうのは、今の俺も思っていることだ。



「それに…………加賀人かがともシたいでしょ? コスプレエッチ」


「っ!?」



 突然、耳元で囁かれた煽情的な声と艶めかしい吐息に、ゾクゾクとした快感が背筋を走る。新那にいなのやつ、味を占めてやがる……!



「ふふ……慌てちゃって、可愛い……♡ 何がいい? やっぱり前世みたいに悪魔っ娘? それとも心機一転してメイド服? 加賀人かがとが相手なら……いっそペットでもいいよ?♡」


「待て待て、ちょっと落ち着け!」



 どこから取り出したのだろうか、チョーカー……というよりは完全にペット用の首輪を自身の首元に当て、恍惚の表情を浮かべる新那にいなを慌てて制する。


 ここには俺と新那にいな以外の人もいるわけで……新那にいなの表情が視界に入ったらしい一般客の女性が、明らかにふらついてたぞ。


 テロ級だからやめてくれ。



「で、なんで麗那れいな紗那さなと一緒じゃダメなんだ? 自分らしく生きるんだったら、別に知られても……」


「完成形はいくらでも見ていいんだけど、過程を見られるってなんか恥ずかしくない?」


「それはまぁ……」


「それに、身内にバレてるのはなんか恥ずかしいじゃない……いや、隠しきれてないのは分かってるんだけどさ。どれだけ完璧なコスプレしても、身内だと『澄ました表情で清楚気取ってるけど、夜な夜な加賀人かがとの服を持ち帰って一人でシてるんだよなぁ』とか思われるわけじゃん?」


「俺は今、新那にいなの発言に今日一で驚いてるよ……」



 なんでそこだけそんなに具体的に出てくるんだよ!

 余計にリアルだわ……それを俺に知らせてどうするつもりなんだ……。



「もしかしたら、そのタイミングに加賀人かがとが鉢合わせする可能性があるでしょ? そうなったら、加賀人かがとは後ろめたさから一生私から離れられなく……ふふっ♡」


「俺、新那にいなの部屋に行かないことにするわ」


「……今日の夜10時ね?」


「言わなくていい!」



        ♢♢♢♢



 ショップにいた時間はせいぜい30分ぐらいだったのに、やけに疲れた……。

 前世の反動か、妙にグイグイ来るな本当……。


 俺にはよくわからないけど、新那にいなは何やらウィッグとメイク道具らしきものをいくつか買ったようだ。『コスプレしたら一番に加賀人かがとに見せるね!』って、表情を綻ばせていた。



 そんな帰り道。



「……なんか、後ろを付いてきてる人がいる?」


新那にいなもそう感じたってことは、俺の気のせいではなかったんだな」



 前世で勇者をやっていたおかげか、そういったことには敏感だ。こっちには『気配感知』なんてないけど、なんとなく分かる。


 というか……その輝くような純白のロングヘア、絶対尾行に向いてないだろ……。



「……何してるの、姉さん」


「あら、バレちゃった」


「さすがお兄ちゃん!」


紗那さなまで……二人して何してるんだ?」



 電柱の後ろに隠れる気もなく立っていた麗那れいな紗那さなが姿を現した。新那にいなと歩いている途中にチラチラ見えていたは、やっぱり麗那れいなの髪だったようだ。



新那にいなが付いていくのは仕方がないとして……そのあと絶対二人でデートしていると思ったからよ」


新那にいなお姉ちゃんにも、抜け駆けはさせないもんね!」


「はぁ……まぁいいけど」



 あきれたような表情を浮かべる新那にいなが、なぜかまともな反応に見える不思議。



加賀人かがととは、色々・・楽しませてもらったもんね」


「っ!? 加賀人かがと君、新那にいなと何したの!?」


新那にいなお姉ちゃん! 一人の時はお兄ちゃんに迫らないんじゃなかったの!?」



 ペロッと舌なめずりして新那にいなが二人を煽ると、案の定反応を示す二人。



「い、いや、別に何も……」


「え~~、キスしたじゃない?」

(頬にだけどね……♡)


「「っ!?」」


「待っ、誤解してる! 絶対誤解してるから!」


加賀人かがと君、新那にいなとキスしたってことは、私ともいいってことだよね?」


「お兄ちゃん、ちょっと屈んで? さな届かない」


「だからっ、ちょっ、んぅっ———」

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