二人でもう少し遊ぼう?

 人の往来がある通りでそんな声を上げていれば、当然何事かと注目される。なんだかイチャイチャしているカップル二組を見て崩れ落ちる可哀そうな非リア……男子高校生に憐みの視線が向けられ始めたところで、とりあえず場所を移動することにした。



 その道中……



「ちょっ、あの子のレベル高くね?」


「くっ……隣の男がいなければ……」


「お姫様と王子様のカップルと、それを護衛する取り巻き的な」



 俺らを見て小声で話す声が、ひそひそと聞こえてくる。

 そのほとんどが、新那にいなのに関することのようだ。


 一応、新那にいなが俺の手をがっちり掴んで離さないこと、そしてあおい志穂しほが周囲を威嚇していることで、新那にいなに声をかけてくるような人はいなかった。



「あ、そうそう加賀人かがと。お前、昨日なんかあったか?」


「何かって……」



 昨日といえば、ショッピングモールで中野なかのさんとたちばなさんに絡まれたことか?



「あったといえばあったけど、なんで知ってんだよ」


中野なかのたちばなの二人がSNSで写真上げててさ、お前と新那にいなさん達が映ってたっぽいから。ほれ」



 剣哉けんやがスマホの画面を俺に見せてくる。

 そこには、見覚えのある場面を映した写真が表示されていた。。



「あいつら、マジでSNSに乗せたのかよ……」


「救いようがないわね」



 それの隣で剣哉けんやのスマホを覗き込む新那にいなが口を尖らせる。

 写真付きで公開とか、モラルないのかよ。ずっと避けてきたのは正解だったな。



「つーかそれ、個人情報がっつり映ってるんじゃ……?」


「まぁな。だからもうSNS上では消されてる。これは一応保存しといたスクショな。……まぁ消したところで、炎上が収まるわけではないけど」


「え、炎上してんの……?」


「安心しろ。3割は中野なかのたちばなへの苦言、2割はお前への擁護、4割は新那にいなさん達が美人すぎるって内容だった」


「……残り1割は?」


「『美人三姉妹を侍らせやがって』っていう、お前への嫉妬」


「えぇ……」


「まぁ、お前とか新那にいなさんに害が及ぶようなことはなさそうだから安心しろよ。むしろ、叩かれまくってるあの二人の今後の方が心配だわ」


「心配に思ってるやつはそんな笑顔にはならんだろ」


「いやいや……」



 苦笑いを浮かべた剣哉けんやが、俺に顔を近づけて耳打ちしてくる。



「ここだけの話、あいつらちょっとめんどくさかったんだよね。俺がゆいと付き合ってるってこと知ってるくせに、しつこく声をかけてくるし。お前も似たような被害受けてただろ?」


「それはまぁ……」


「そう思ってる奴らは多いだろうさ。だから、『ざまぁ』って感想しか出てこないな」


剣哉けんや……お前笑うと悪人にしか見えないな」


「似合うだろ?」



「はいチーズ」



 突然聞こえたそんな掛け声とシャッター音。

 俺と剣哉けんやが視線を向けると、スマホを構えたあおいの姿があった。



「「なんで写真撮ってんの?」」


「ニヒルな笑顔で責める剣哉イケメンと、戸惑いながらも受け入れる加賀人イケメン……最高かよ」


「この写真一枚で一生捗る……」


「『けんゆいカップル』だけでも尊いのに、『かがにいなカップル』と『剣哉×加賀人ケンカガ』まで見られるとか……過剰供給過ぎない?」


「カラオケ代だけで見ていいのこれ? 廃課金コンテンツじゃなくて?」


剣哉けんや君に攻められる加賀人かがと君を見てムッとする新那にいなさん……」


「嫉妬ですね分かります」


「「「「…………」」」」



 あんまり関わったことが無かったから知らなかったけど、あおいさんはともかく志穂しほさん……あんたそういう人種だったんだな……



「はっ! 『唯×新那ゆいにい百合』もありなのでは……?」



……もう何も言うまい。



        ♢♢♢♢



 その後のカラオケは、久しぶりだったけどかなり楽しかった。晴翔はると琉生るいが、半ばやけくそで場を盛り上げていたんだけど、何かあったのだろうか……


 そして新那にいな

 めっちゃくちゃ歌上手いのな……あれだけやけくそだった晴翔はると琉生るいが言葉を失うって相当だよ。


 今度、麗那れいな紗那さなも誘って4人で行ってみようかな。



 そんなこんなで夢中になって、結局4時間ぐらい歌ってたと思う。明日は声が掠れてるだろうな、これは……



加賀人かがと君、新那にいなちゃん、今日はありがとう!」


「ううん、こちらこそ。急に来てしまってごめんね?」


「全然いいよ! むしろ来てくれて良かった! めちゃくちゃ歌上手いし……あっ、連絡先交換していい?」


「うん、いいわよ」



 お互いにスマホを取り出して連絡先を交換するゆい新那にいな


 いつの間にそんなに仲が良くなったんだろうか。



「ねぇ加賀人かがと君、ちょっとだけいい?」


「どうかした?」



 始めより表情が柔らかくなった新那にいなを眺めていると、あおい志穂しほが声をかけてきた。



「いや、その……加賀人かがと君って新那にいなさんの他にも義姉と義妹がいるんだよね?」


「まぁ、そうだけど」


「ふへへっ……なんかこう、見たいなぁって……」


「ワンチャン4P……じゃない、4人の仲が良いところが見たくなっちゃって」


「……また遊ぶ予定があったら呼んで欲しいとか、そういう話か?」


「もちろん強制じゃないからね!? 新那にいなさんだけでも充分摂取でき……楽しめたから!」


「その時は剣哉けんや君とゆいちゃんも誘うから!」


「……二人が乗り気だったらな」


「「っしゃっ!」」



 麗那れいな紗那さなはあんまり気が無さそうだけど、こうでも言っておかないと、ずっと言ってきそうだ。


 『断られた』とでも言えば、さすがに諦めるだろうし。









 その後、皆と別れて俺と新那にいなは二人きりとなった。昼ぐらいから集まったから、そろそろ夕方だ。



「……たまにはこういうのも悪くないわね」


「なんだかんだ言って、新那にいなも結構楽しんでたからな」


「まぁね……ところで加賀人かがと


「何?」


「せっかく二人になったんだしさ………もう少しだけ、二人で遊ばない?」

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