加賀人は私が守らないと……

加賀人かがと、もうちょいで着くって」


「オッケー」


「『みんなもう待ってるぞ』って送っとく」



 通知のあったスマホに目を落とし、俺……剣哉けんやはそう返信する。集合場所の駅前には、すでに俺、晴翔はると琉生るい、女性陣ではゆいあおい志穂しほの3人が集まっていた。


 今日このメンバーで遊ぶきっかけになったのは、他でもない俺とゆいだった。


 何を隠そう、俺とゆいは付き合っているのだ! 超可愛い。ラブラブである。



 ゴールデンウィークだし、ゆいとカラオケでも行こうかと話していたとき、せっかくだからと晴翔はると琉生るいにも声をかけたら、ちょっと引くぐらいの勢いで了承してきた。


 ゆいの方はというと、むしろ向こうから声をかけてきたあおい志穂しほも連れてきて、あっという間に6人が集まったのだ。


 彼ら彼女らの狙いはなんとなく分かる。晴翔はると琉生るいは彼女いないし……。



 以前の騒動で加賀人かがとの姉妹を見た二人は、おそらくもう手遅れである。


 俺と加賀人かがとが仲良いから、俺が来る=加賀人かがとも来る→ワンチャンお姉さんも……と、淡い期待を持っているようだ。


 そう上手くはいかないだろうけど。



 んで、志穂しほは……よく分からない。彼女はあまり自己主張をしないタイプだから、あまり接点がないのが正直なところだ。


 ただ、志穂しほあおいは仲が良いらしい。



 問題はあおいだ。



加賀人かがと君、来れるみたいで良かったね」


「正直ダメ元だったけどな。今あいつ、なんか忙しそうだし」


「忙しそうなのに誘ったの?」


「まぁ、息抜きになればと思ったんだよ」


「イケメンの気遣い、最高かよ……」


あおいちゃん、剣哉けんやは渡さないよ?」


「いやいやいや、私は見てるだけなんで! もっとイチャイチャしてどうぞ、見てるだけなんで!」



 あおいはこんなやつだ。

 恋バナが好き……というよりは、カップルがイチャイチャしているのが好きなのであって、邪魔するでもなく、本当に見守っているだけなのだ。


 『なんか変なやつ』というのは、クラスの共通認識である。


 かといって本人のコミュ力はかなり高く、陽キャ寄り。そして友達の恋愛相談に乗るのがめちゃくちゃ上手く、クラス内外関わらず友人が多い。


 ただ趣味が特殊な、普通のクラスメイトだ。



「……いや、剣哉×加賀人ケンカガもあり、か……」


「…………」



 普通だと信じたい。










「ごめん、待たせた」



 それから数分後、ようやく加賀人かがとが到着したようだ。



「うっす、加賀人かがと、やっと来た……か?」



 適当な所で話を切り上げ、声のした方へと目を向けると……



「すまん、もう一人追加してもいいか?」


「初めまして。私の加賀人かがとがお世話になってます」



 そこには、とんでもない美少女と手を繋ぐ加賀人かがとの姿があった。



        ♢♢♢♢



 新那にいなが『着いていく』と言い出し、さすがに学校も違うし気まずくなるだろと断ろうとしたんだけど……必死な様子の彼女達に結局押し切られ。


 少し遅れたけど、俺は新那にいなと共に集合場所へと向かうことになった。



 駅に向かう途中、『……なんかあの女の人、加賀人かがとのこと見てない?』じゃないんだよ……それ、新那にいなを見てるんだよなぁ。


 新那にいなの美貌が男女問わず注目を集めるから、正直かなり居心地が悪かった……。



新那にいな、いつまで手握ってるんだ?」


「今日はずっと離さないわよ? 加賀人かがとを取られたくないし、私が独り占めできるんだもん」


「えぇ……」



 移動中、何度もした会話だ。麗那れいな紗那さなに邪魔されないことをいいことに、家を出てからずっとこんな感じである。


 かといって振り解こうものなら、『私と手を繋ぐの嫌なの? ねぇ、どうして?』と詰め寄られるに決まってる。


 そんな俺と新那にいなを見たクラスメイトがどんな反応をするか……もう既に気が気でない。



「ごめん、待たせた」


「うっす、加賀人かがと、やっと来た……か?」



 振り向いた剣哉けんやの目が見開かれ、表情が固まるのが分かる。同じく集合場所にいた晴翔はると琉生るいも同様に固まっていた。


 その視線は全て俺の隣の新那にいなに注がれていて……まぁそりゃそうだよね……。



「すまん、もう一人追加してもいいか?」


「初めまして。私の加賀人かがとがお世話になってます」


「えっ? いや、まぁいいけど……じゃなくて、どちら様で……?」


「私は新那にいな加賀人かがとの……うん、彼女です♪︎」


「「「「「「はぁっ!?」」」」」」


「いや待て新那にいな! 違うだろ!」


「どうして? 同い年なんだし、姉でも妹でもないでしょ? それに、こんなに仲がいいんだから」


「ちょっ……!」



 見せつけるように腕に抱き付いてきた新那にいなに、俺は思わず声を上げる。


 ムニッとした極上の感触と共に今朝の光景がフラッシュバックし、ブワッと頬が熱くなる。


 そんな俺とはお構いなしに新那にいなはご満悦な表情を浮かべ、晴翔はると琉生るいはストンと表情が抜け落ちた。



加賀人かがと、お前ついに彼女作ったのか……?」


「『彼女いない同盟』を結んでた俺らを、裏切ったってのか……?」


「いや、別に加賀人かがとはいつでも彼女作れただろ」


「「それとこれとは話は別だ!」」


「彼女じゃないって! 言っただろ、再婚した相手の───」


「そんなに強く否定しないでよ加賀人かがと……昨晩一緒に寝た仲じゃない」


「なん……だと……?」


「あんな美人な姉と天使みたいな妹がいるくせに、さらに別の美少女と一緒に寝た……?」


「リアルハーレムかよクソッ!」


「一人で3人も独り占めするようなやつがいるから、俺らがあぶれるんだ!」


「リアルラブコメ主人公を許すな!」



剣哉けんや、こいつらどうすればいい?」


「放っときゃそのうち収まるだろ。それより問題はこっちだろうさ」


「?」



 剣哉けんやが指差した先に目を向ける。そこには、キラキラした目で『今すぐにでも話しかけたい!』と言いたげなゆいの姿。


 そして、ギラリと目を光らせたあおい志穂しほの二人の姿があった。

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