決着

 真凜まりん姫乃ひめのに絡まれ、手を取られたところで麗那れいな新那にいなが戻ってきた。


 二人は両手に4人分の飲み物をそれぞれ持ちながら、俺に詰め寄っているクラスメイトを眺める。


 スゥッ———と麗那れいな新那にいなの目が細められ、目のハイライトが消えるのが分かった。



 紗那さなの小さな手を押しのけ、俺の腕を掴む二人組の女……それだけで麗那れいな新那にいなが彼女達を『敵』と認識するには十分だった。



「あなた達、加賀人かがと君に何か用かしら?」


「……なに、急に」


「あんたに関係なくない?」



 麗那れいなに差し出された飲み物を受け取り、事の顛末をハラハラした気持ちで見守る。こうなった姉さん……いや、カミーリア・・・・・は、勇者の力をもってしても手に余るほどだ。


 新那にいなはというと、俺と彼女達の間に割って入り、警戒心を隠しもしない。



「関係あるわよ。加賀人かがと君は私の大切な人だから」


「へぇ……あ、もしかしてイケメン君を取られると思っちゃった??」


「だた遊びに誘ってるだけじゃん?」



 麗那れいなの言葉に怯むでもなく、二人は笑みを深める。

 そんな言葉が出てくるあたり、それほど自分の容姿に自信があるのだろうか。



「そうかしら、私には別の目的があるように見えるのだけど?」


「は? 何? 別の目的?」


「大方、こうじゃないかしら……格好いい加賀人かがと君を連れ歩ける自分は凄い、もっと羨ましがられたい……ってところかしら」


「はっ、ウザッ」


「あんた何? ウザいんだけど」



 反論ができなかったようだ。

 図星を突かれたから、『ウザい』と相手を威嚇することしかできない。



「ただ普通に遊びたいだとか、加賀人かがと君を本気で好きならともかく……加賀人かがと君はあなた達のアクセサリーではないのだけど? そんなのに私の加賀人かがと君を渡すわけないじゃない」



 あぁ、そうだ。

 麗那れいな新那にいな紗那さなも、覚悟が違う。

 『絶対に添い遂げる』と、転生してまで俺の後を追ってきたほどだ。


 狂う程に熱烈な愛を滾らせる3人の間に、他の者が入る余地など、微塵もないということだろう。



 ……ただ単に、俺が他の女子と遊ぶのを阻止したいという私怨もあるだろうけど。



「っ……加賀人かがとくん、あの人絶対ヤバいよ」


加賀人かがとのストーカー? 殺される前に早く逃げよ———」



 そう言って再び俺に近寄ろうとする真凜まりん姫乃ひめのは……



 深淵のような目をした新那にいなと、目に涙を浮かべた紗那さなによって止められた。


 流石に可愛い幼女の涙には勝てなかったのだろう。

 気圧された真凜まりん姫乃ひめのの二人は一歩後ずさりする。



「……あなた達、本当にすごいわね。まだそれで行けると思ってるのかしら」


「は? どういう意味?」


「分からない? 男をアクセサリーとしか思ってないと公言しているようなもので……しかも、幼い女の子を放置して遊ぼうって? さすがに人間性を疑うわよ」



 麗那れいなの声が聞こえたのだろうか、ヒソヒソと周囲から声が聞こえ始める。騒ぎを気にした周囲の人々が、いつの間にか取り囲んでいたらしい。


 状況を知らない周囲の人々も、俺にしがみついて涙を流す紗那さなの姿を見て、色々と察したようだ。


 ギャル二人組の方が、何かやらかしたのでは……と。



「っ! うっさいなぁっ、偉そうに説教するなよブス!」


「いきなり突っかかってきて、調子に乗るなよ!」


「あら、自己紹介かしら? 殊勝な心掛けね」


「っ!」



 パンッ! と乾いた音が響く。耐えられなかった姫乃ひめのが、麗那れいなの頬をビンタしたのだ。


 ザワッと周囲にどよめきが広がり、誰かが声を上げるよりも早く———


 俺は紗那さなを抱いたまま、衝動的にイスを蹴倒しながら立ち上がっていた。

 当たり前だ。

 家族・・に手を挙げられて、黙っていられるわけがないだろう!



「鬱陶し、さっさと帰ろ」


「あんたのことSNSで晒してやるから」


「おい、待てよ」


「いいの、加賀人かがと君。あんなのに加賀人かがと君が関わる必要なんてないわ」



 立ち去る真凜まりん姫乃ひめのに詰め寄ろうとした俺を止めたのは、他でもない麗那れいなだった。


 白く美しかった麗那れいなの頬は赤くなっていて、痛みもあるだろう。

 けど、それを曖気おくびにも出さない。


 ……何もそこまでしなくてもいいのに、本当に麗那れいなってやつは……



「姉さん、叩かれた所見せて」


「んっ、ゃっ、大丈夫だからっ……///」


「腫れてるだろ、すぐに冷やさないと。紗那さな自分で歩けるか?」


「うんっ」


 麗那れいなの叩かれた頬に手を当てると、少しだけ腫れていて熱く熱を持っていた。早めに対処しておかないと、赤く痕が残ってしまうかもしれない。


 いい加減周囲の目も気になるし、さっさとこの場から居なくなるに越したことはないだろう。


 俺は麗那れいなの手を引き、その場を後にする。

 握った麗那れいなの手が熱いことから察するに……冷静そうに振る舞っているけど、興奮状態だったのだろう。


 静かな場所で落ち着くのが一番良い。



「……ごめんな」


「……そ、そこは『ありがとう』って言うべきじゃないかしら」


「そっか、なら……ありがとう、姉さん」


「んっ」



 照れ隠しだろうか、麗那れいなが俺の手を握る力が強くなる。


 ……3人とも迷惑をかけてしまったし、家に帰ったら埋め合わせをしないとな……。


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