戦いが始まりそうな予感……

「つ、疲れた……」


「あはは、ごめんね加賀人かがと君……つい楽しくなっちゃって」



 ようやく服の購入を終えた俺は、疲れきった様子でとぼとぼと歩いていた。


 というのも、麗那れいな達3人が代わる代わる試着をして見せに来ること、実に1時間強。



 今までずっとファッションにあんまり興味がなかった俺は、求められる感想を口にするだけでも相当な苦労だった。


 購入するものを何着か決めて会計を済ませると、次はメンズコーナーへと連れていかれ、今度は俺の服を選ぶというのだ。


 3人揃って超真剣な表情で議論してるから、『適当でいい』なんて言えるはずもなく。ただ彼女達にされるがままに俺は着せ替え人形と化していた。


 それもつい先ほど終わり、俺はようやく解放……じゃない、休憩することができたのだった。



「お詫びにコーヒーでも買ってくるから、加賀人かがと君はここで座ってて」


「ありがとう、そうするよ……」


「あっ、じゃあ私も行くわ。加賀人かがと紗那さなの面倒見てて?」


「へーい」



 近くの休憩スペースに腰を降ろすと、麗那れいな新那にいなは二人離れて自販機の方へと向かっていった。


 そして紗那さなはというと、ここが定位置だと言わんばかりに腰を降ろした俺の膝の上へとよじ登り、背中を預けてご満悦な表情だ。


 ……適度な重さと暖かさが心地よい……。



「お兄ちゃん、疲れちゃった?」


「ちょっとね……普段こんなに時間をかけて買い物することなんてないからさ」


「……そういうの正直に言っちゃうと、女の子はムッとなるよ?」


「それは彼女だった場合だろ、俺達は今兄弟姉妹なんだから」


「む~~~~っ」



 頬を膨らませてむくれる紗那さなは、悪いが全く怖くない。むしろ誰がどう見ても『可愛い』というだろう。



「さなは楽しかったよ? お兄ちゃんが可愛いって言ってくれたし!」


「逆にそれしか言ってないけど」


「でも本音でしょ?」


「それは、まぁ……」


「だからいいもん♪︎」



 背中越しにこちらを見上げる紗那さなと目が合い、何故か気恥ずかしく感じた俺は照れ隠しに彼女の頭を撫でる。


『んぅっ♪︎』と声を漏らして目を細め、気持ち良さそうにする紗那さな



 ……麗那れいな新那にいなならともかく、俺は今紗那さなを女性として見てた……?


 いや、ダメだ。

 そうだったのなら、彼女達の思う壺。

 そもそも10歳の紗那さなをそんな目で見るなんて……。



「───あれ、もしかして加賀人かがと?」


「っ……!?」



 ふいに聞こえた声に、俺は顔を上げてそちらの方を見る。そこにいたのは、俺が所属する学年でカーストトップの、ギャル2人組であった。



「何、真凜まりんの知り合い?」


「違うけど、ほら、噂の彼じゃん。1組の加賀人かがと君」


「あーね、私も聞いたことはあるわ。確かにめっちゃイケメンじゃん」



 俺を見ながらそんなことを話している二人は、3組の中野なかの 真凜まりんたちばな 姫乃ひめのだ。


 明るく染めた髪、ピアスにカラコン……普段から制服を着崩しているぐらいなのだから、私服ともなるとなかなか目のやり場に困る感じだ。



 正直、俺からしたら苦手な人種だ。

 前世、前々世での記憶もある俺は、軽々しく他人と付き合ったり別れたりということに忌避観を持っている。『付き合うならお互いに好きになってから』と言うぐらいだからな。


 偏見ではあるけど、そういう人達・・・・・・は今までずっと意図的に避けてきたのだ。



 そんな俺の内心を知りもしないのだろう。

 真凜まりん姫乃ひめのの二人は、真っ直ぐ俺に近づいてきた。



「ねぇ、1組の加賀人かがと君、だよね?」


「休日に会うなんて奇遇だね? 今日暇なの?」


「……まぁ、見ての通りだよ」


「お兄ちゃんのお友達?」



 眉間に皺を寄せ、警戒心を顕わにする紗那さな

 ぎゅっと強く手を握ってくるあたり、紗那さなは意外と人見知りなのだろうか。



「妹? ふーん……家族で来てるみたいな?」


「暇ならさ、うちらと遊ばない? うち、加賀人かがと君と遊んでみたいと思ってたんだよね~」


「……冗談だろ?」



 見るからに、今は紗那さなの世話をしてるのが分かるはずだ。

 まさか紗那さなを連れていくつもりもないだろう。紗那さなを放っておいて、こっちに来いって?


 何を考えてるんだこいつらは。



「あれ、加賀人かがと君、もしかして機嫌悪い?」


「だったら余計にうちらと遊ぼうよ! 絶対楽しいと思うんだよね。妹さんは家族に預けておけばいいでしょ? ほら、行こうよ!」


「あっ、ダメッ!」


「おい、止め———」



 無理やり俺の手を取ろうとする真凜まりん姫乃ひめの、そしてそんな彼女を威嚇する紗那さな


 女の子相手に強く拒否もしにくく、対応に困っていたその時。



加賀人かがと君、お待たせ……あら、どなたかしら」


加賀人かがとの友達?」



 タイミングがいいのか悪いのか、飲み物を買いに行っていた麗那れいな新那にいなの二人が帰ってきたのだ。

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