正夢になる可能性が……?

加賀人かがと君、背中流してあげるわね」


「お兄ちゃん……背中おっきい……」


「じゃあ私は背中洗ってもらお♪ やってくれるでしょ、加賀人かがと? もちろん手で、しっかりと、ね……♡」


「お兄ちゃん、ここも洗って? んっ……そこっ……♡」


加賀人かがと君、どう? 私の身体は気持ち良い……?」



………………………………………


……………………………


…………………


…………




「はっ……!」



 ふと目を覚ました俺は、見慣れた自室の天井を見て『夢だったか……』と胸を撫でおろした。


 あまりにもリアルすぎる……というか、昨日見たものを思い出したというべきか……。


 流石に、今夢で見たようなことは起きてない。

 確かに紗那さなが入ってきたのも、身体で迫ってきたのも事実だが、さすがに子供の身体に欲情はしない。というか、したらマズい。


 結局何事も起こることなく、(つまみ出すのも可哀そうだし……)普通に背中を流してもらって、お返しに背中を洗ってやって終わり。


 出てから綾那あやなさんから注意してもらったけどね。

 流石に男が入ってるところに、無防備に混浴しに来るのはアウト。しかも10歳だから余計にアウト。



 しかしまぁ、彼女たちの裸体は俺の脳裏にしっかり焼きついてしまったみたいで、夢にまで出てくるなんて……



「……なんか俺が期待してるみたいじゃん……」



 いやいや、あいつらの中身はかつての敵!

 そうじゃなくても今は家族!

 変な気は起こすなよ、俺!










「あら、おはよう、加賀人かがと君。もう朝ごはんできてるわよ?」


「っ……おぉ……」


「?」



 着替えた後、リビングへとやった来た俺の目に飛び込んできたのは、エプロンに身を包み、艶やかな白髪を後ろで纏めた姿の麗那れいなだった。


 数日前にも見た姿だけど……なんと言うか、『理想の結婚生活』としてイラスト投稿サイトに溢れてるイラストみたいな、現実離れした美しさだ。


 不覚にも見とれてしまった俺は、「おぉ……」と感嘆の声しか出せなかった。



「ほら、早く食べないと冷めるわよ?」


加賀人かがとは水がいい? それとも牛乳?」


「え? ぁっ、えっと……牛乳で頼む」


「オッケー」



 麗那れいなに促されるままに席に着くと、麗那れいなお手製のホットサンドが目の前に並べられ、新那にいなが牛乳を注いで持ってきてくれる。


 ……こんな至れり尽くせりの朝食があっていいのだろうか?


 まだまだ温かそうに湯気が立つホットサンドに食欲を刺激されつつ、ふと自分の斜め前に座る小さな影……紗那さなへと視線が吸い込まれる。


 もそもそと不機嫌そうにホットサンドを頬張る彼女の首からは、『反省中』と書かれた板が提げられていた。



紗那さな、その……首のそれ、どうした?」


「(;_;)!」


「ぇ、な、泣いてる?」



 俺に声をかけられた途端、目に涙を浮かべた紗那さなが無言で俺を見つめてくる。それでも何も言わないから、俺には何も伝わってこない。



紗那さなは今反省中なのよ。昨日、約束を破ったから」



 自分のホットサンドをお皿に乗せて紗那さなの隣へと座る麗那れいなから、そうフォローが入った。



「約束……?」


「えぇ、『加賀人かがと君に無理矢理迫ったりしないこと。既成事実を作るなら3人揃って』っていう……」


「その、当事者の俺の意思が全く反映されない約束は何なの? というか、3人一緒なら既成事実作るって宣言してるようなものだけど?」


「……それで昨日、紗那さな加賀人かがと君が入浴中に入り込んで身体で迫り……」


「スルー!? なんだか身の危険を感じるんだけど!?」


「それで、約束を破った紗那さなは反省中……今日一日、紗那さな加賀人かがと君と会話禁止」


「(>△<)」


「あぁ、だから表情で訴えてきてるのな……」



 意地でも俺の意思を取り入れようとしない麗那れいなに、言っても無駄だと諦めつつ、紗那さなに視線を向ける。


 紗那さなはコロコロと表情を変えつつ、俺に助けを求めてきているようだ。



「それを言うなら、姉さんも混浴に誘ってこなかった?」


「誘っただけで無理矢理連れ込んでいないでしょ? それに、加賀人かがと君が断ってからはそれ以上は何もしてないし……」


「た、確かに……」



 あれ……?



「もしかして……三人揃ってるのなら、俺の入浴中に入ってくるのがあり・・になるんじゃ……」


「…………ふふっ」



 よし、この話は止めよう!



「と、とにかく! 10歳の紗那さなに、会話禁止はキツいんじゃねぇの?」


「女の武器を使って襲いかかったんだもの、そこは公平に、ね」


「と言っても、実際に何かあったわけでもないし……10歳で混浴をねだるのは、兄離れできてないなとは思うけど、子供っぽくて可愛いと思うな」


「(;△;)!?」


「ふふ、まぁそういうことなら……」


「納得した……のか?」



 途端に笑顔になった麗那れいなと、逆に泣き顔が酷くなる紗那さなに違和感を覚えつつも、ひとまず麗那れいなも『会話禁止』の解除に納得してくれたようだ。


 この時俺が放った『子供っぽくて可愛い』という発言は、暗に『紗那さなを女性として見ていない』と言っているようなもので……



 それを感じ取った紗那さながショックを受けたのだと知ったのは、まだまだ先のことだった。

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