4人の愛の巣、作っちゃお?

 学校を出て歩くこと数十分。結局俺は、家に到着するまで紗那さなを抱えたまま歩くことになった。


 本人はご満悦な表情だけど、さすがに疲れたな……。



 と、休憩を入れたのも束の間、しばらくして引っ越しのトラックも到着し、如月家の荷物を家に運び込んだところだ。


 魔王ルヴィリエ……じゃなくて綾那あやなさんはファッションデザイナーゆえに衣類系の荷物が非常に多く、でかめのウォークインクローゼットを見てテンションが上がっていた。



「私達の部屋もある?」


「もちろん。親父が張り切って子供部屋を5個も作ったらしいし、荷物置き場になってたけどそれも整理したから使えると思うよ」


加賀人かがと君と私、新那にいな紗那さなで4部屋……一部屋余るけどどうする?」


「うーん、普通に荷物置き場とか……」


「はいはーい! 私に提案があります!」



 元気よく手を挙げたのは新那にいなだった。



「なにかいい案がある?」


「私たち4人の愛の巣……じゃない、共同部屋ってことでどう? 余ったテレビとか冷蔵庫とか炬燵とかも置いちゃって、4人で集まる場所って必要でしょ?」


「なんか今変なこと言いかけなかった?」


「気のせいじゃない?」



 良い案だろうとばかりに胸を張ってドヤ顔を浮かべる新那にいなもまた、可愛い。可愛いけど……さらっと変なこと言うなこの子。


 しかし、共有スペース的な扱いか……それもありかもしれないな。



「テスト勉強する時だとかは役に立つかもね。特に加賀人かがと君は」


「う、どうせ俺は姉さんほど優秀じゃないですよ……」


「そういうつもりじゃないわよ。最悪私が一生養ってあげるから……♡」


「よし、勉強頑張るわ」



 ヒモになって生活とか、社会的に死ぬ……!



        ♢♢♢♢



 それからしばらくして。


 荷物の運び込みや荷解きを終え、俺と親父だけで飾り気がなかった家には所どころに可愛らしい物が増えた。


 特に色調がピンクっぽくなったというか、随分と明るくなった印象を受ける。


 そして、共有部屋の中央には炬燵こたつが置かれ、テレビや本棚、さらには冷蔵庫など、普通に生活するのに十分な家具が整備されていた。


 独り暮らしはしたことはないけど、なんだか自分だけの空間ができたようでウキウキしている自分が居たり。自分だけ・・・・ではないんだけどね……。



 目の前に広がる非日常な光景に、ぼんやりとそんな現実逃避的なことを考える。


 現実離れした美女・美少女の3人が、俺と同じ炬燵に入ってアイスを頬張っている。紗那さなに至っては、俺の膝の上に座って身体を預けてくるほどだ。


 3人揃ってちょっとお高めのカップアイスを口に運んでは、「ん~……♪」と満足そうに声を漏らす。そういうところは姉妹でそっくりだ。



「やっぱり炬燵でアイスは最高ね」


「ホント……炬燵とアイスを開発した人に拍手を送りたい……」



 一昨日、獲物を狩る目で迫ってきた3人とは似ても似つかないほど、普通・・の女の子の表情だ。美貌だけを見れば全然普通ではないけど……俺にとってはかなり新鮮で、無意識に視線が吸い込まれる……そんな魅力があった。



加賀人かがと君、どうしたの? 私の顔をじっと眺めて」



 いつの間にか、ぼんやりと麗那れいなを眺めてしまっていたのだろう。不思議そうに首を傾げた麗那れいなの声に、ハッと意識を取り戻す。



「……あら、もしかして……そんなに食べたら太るとか考えてる? それは女性に対して失礼じゃなくて?」


「い、いやっ、そう言うわけじゃ———」


「別にいいのよ……私、食べても太らない体質だから」


(いや、それは太らないというより……)



 前屈みに身を乗りだし、不満そうに頬を膨らませる麗那れいなだが、俺の視線はその下……炬燵に乗っかった彼女の胸に向き、慌てて視線を逸らす。


 表情には出していないけど、心の中では『デッッッッッッッカ!?』叫んでしまった。そんなのがバレたら引かれる……というか死にたくなる……。



「ふーん……お姉ちゃんいいよね、私にもちょっとちょうだい?」


「ちょっとちょうだいって、今食べてるでしょ?」


「ううん、アイスじゃなくて胸の話」


「……はい?」


「だってこれだよ? これっ!」


「ちょっ、わっ……!?」



 新那にいなはいきなり麗那れいなに飛び付くと、後ろから両手で胸を持ち上げる。ただでさえ頑張って耐えていた服は悲鳴をあげ、胸部のボタンが今にも飛びそうになっていた。



「や、やめっ……!」


「お姉ちゃん胸大きすぎ! 加賀人かがと、絶対『デッッッッッッッカ!?』とか思ってるよ!」


「お、おおお思ってねぇし!?」


「お姉ちゃんこれで、私これだよ? 4歳しか離れてないのにおかしくない!? ほら、よく見て。加賀人かがともそう思うでしょ!?」



 『よく見比べて!』と言わんばかりに、俺の目の前へと自分の胸を突き出す新那にいな。ふわっといい香りと共に、視界を二人の胸が埋め尽くす。


 いや、新那にいなの胸も同年代と比べれば十分にデッカ———言えるかそんなこと!



「あーっ、加賀人かがとも目ぇ逸らした。やっぱり大きい方がいいんだ」


「ダメッ、新那にいな……揉まないでっ」


「な、何が起きてるんだ……」



 何か見てはいけないことが目の前で起こってる気がする……!



「む~~……お兄ちゃん、さなのおっぱいじゃダメなの?」


「っ!?」



 明後日の方向を向いていた俺の様子を見てムッとした表情を浮かべた紗那さなが、俺の手を取って自分の胸に当てる。


 麗那れいなの時とはまた違う……小さいながらにもしっかりとした柔らかさがあり、体温が高いのか手から伝わる熱も心地よいと思ってしまう。


 そして掌に感じる、小さいが確かに存在する突起が……



「んっ……」



 紗那さなの口から、小さく声が漏れる。ほんのりと熱を帯びた紗那さなの声にハッと我に返った俺は、慌てて手を離した。



「わ、悪いっ!」


「ううん……お兄ちゃんは、小さいのも好きなんだ?」



 小学生とは思えないほど蠱惑的な笑みを浮かべる紗那さなが、俺の腰の上に向かい合わせに座って両手を首の後ろへと回してくる。


 この密着度はヤバいっ……!



「あらあら、加賀人かがと君は紗那さなのも好きなんだ。私のを触った時も嬉しそうだったけど」


「っ!? 加賀人かがと、お姉ちゃんの胸も揉んでたの!?」


「違っ、あれは麗那れいなが勝手に———」


「やっぱり揉んでるじゃん! ずるいっ、私にも!」


「ちょっ……!?」



 ガバッと服をたくし上げ、薄い水色の下着を露出した新那にいなが迫る。まさか、直接触ってほしいとでも?



「ダメ、お兄ちゃん。こっち見て……?」



 新那にいなから目を逸らした俺の頬を両手で包み、振り向かせてくる紗那さなと目が合う。そんなことをしている間に、背後に回った新那にいなに後ろから抱き着かれ、さらに身動きが取れなくなってしまう。



「姉さん、助け……」


「んっ……ふふふ、私だけ仲間外れは悲しいわ。私も混ぜて?」


「えっ———」



 さっきまでの柔らかい笑顔は何処へやら。いつか見た『獲物を狩る目』をした麗那れいなが迫る。


 どうやらここには、俺の味方は居ないようだ。


─────────────────────

あとがき


★、増えろっ!




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