「判決は?」「ギルティ!」

「———明日からゴールデンウイークに入りますので、遊ぶのもいいけど課題もしっかりやるように! では終わりましょう」


「起立! 気を付け、ありがとうございました!」


「「「「「ありがとうございました!」」」」」



 帰りの挨拶が終わり、今日からゴールデンウイークに入る。そして、それは今日から綾那あやなさん達との生活が始まることを示していた。


 当然俺も引っ越しの手伝いはするから、今日ばかりは早く帰るつもりだ。


 挨拶が終わってすぐ、俺は荷物を担いで──



加賀人かがと、ちょっといいか?」


「まぁまぁ、そう急ぐなって」


「一旦こっち座れよ」



 教室を出る前、にこやかな笑顔を浮かべた剣哉けんや達数人のクラスメイトの引き留められた。


 にこやかな笑顔とは裏腹に、妙に強い力で座らされた俺は、彼ら彼女らに囲まれる。



「な、なんだよお前ら……」


「これより被告加賀人かがとへの訊問を開始する!」


「単刀直入に聞く……昨日仲良さそうにしてたお姉さんは誰なんだよ」


「その話かよ……」



 昨日は、麗那れいなの美貌ゆえにかなりの注目を集めてしまっており、当然クラスメイトも多くが見ていただろう。


 俺が手を引かれて帰ったのも。



「あんな人とどうやって知り合った!?」


「しかもめっちゃ好感度高かったし!」


加賀人かがと君、彼女できたの……?」


「いやだから……『姉さん』だって朝も答えただろ?」


「「「信じられるかぁっ!」」」


「どう見たってあの人外国人、よくてハーフだろ?」


「お前と血が繋がってるわけ無いだろうが!」



 確かに、ルヴィリエ……綾那あやなさんは、今でこそ日本国籍を持っているものの、産まれは北欧らしい。


 その血を受け継いでいる麗那れいなは、白い髪に蒼眼という、日本人ではあり得ない見た目だ。



 それだけ見れば確かに、『姉さん』だと言っても誰も信用しないか。



「めんどくさいから正直に言うけど、親父が再婚して『姉さん』になったんだよ」


「つまり……義姉ってコト!?」


「まぁ、そうなるな」


「そ、そんな……」


「あんな綺麗な人と同棲だなんて……勝ち目がないじゃん……」


「血の繋がりがないならそういうこと・・・・・・もできちゃうし……」



 俺の言葉を聞いた何人かの女子が崩れ落ちた。そして男子陣も……



「クソがっ」


「超絶美人ハーフの義姉だと!? そんなの、お前っ……!」


「神は幾つのものをこいつに与えるつもりなんだっ……!」


「あの笑顔で朝起こされるだけじゃねぇ。風呂場でばったりご対面だとかもあるってことだろ!?」


「んなことあるわけ───」



 ふと脳裏に甦る、麗那れいな達とのキスの記憶。暖かくて柔らかくて、意識が蕩けるような───


 まさかラッキースケベ以上のことをすでに経験しているなど、こいつらは夢にも思うまい。



「───あるわけないだろ」


「ねぇなんで今言い淀んだの!? ねぇ、教えてっ!」


「何かあったんだな!? そうなんだなっ!?」


「や、やめっ」



 俺の様子を目聡く見抜いた女子が、俺の肩を掴んでガクガクと揺さぶる。

 あぁぁぁっ、頭が揺れるぅ。



「つーかそれでも変じゃね? 突然姉弟になったら、普通は気まずい感じになるだろ。向こうからあんなにベタベタしてくるか普通?」


「何なら今日も迎えに来てるからな」



 誰かが発したその一言に、俺を囲んでいたクラスメイトの視線が一斉に窓の外へと向く。そこにできている人だかりの中心には、その部分だけ輝いて見えるような美人と……



「一緒にいる幼女は何者……?」


加賀人かがと、なんか一人増えてるんだけど……って居ねぇ!」


加賀人かがと逃げたぞ!?」



 すまんが真面目に付き合ってられないから、皆が外を見ている間に逃げさせてもらった。ゴールデンウィークを挟むから、次に学校に来る時には多少は収まってくれてるだろう。



        ♢♢♢♢



加賀人かがと君っ!」



 人だかりの向こうに俺の姿を見つけたらしい麗那れいなが、手を振ってアピールしてくる。


 周囲の目が一斉に俺の方へ向くが、柔らかい笑顔を浮かべて小さく飛び跳ねながら手を振る麗那れいなは、そんな周囲の視線も気にならないほど可愛かった。


 そんな人だかりの間を縫って、こちらへ走ってくる小さな姿が一つ。


 輝くような金糸のツインテールを靡かせ、小さな身体を懸命に動かして走るその女の子は、そのままの勢いで俺の懐へと飛び込んできた。



「お兄ちゃん!」


紗那さな!? お前も来てたのか」


「えへへ……♪︎」



 ぎゅっと抱き着いて俺の腹の辺りにスリスリと顔を押し付ける紗那さなは、とても幸せそうな表情だ。


 周囲の目が余計に鋭くなった気がしたけど。



紗那さな、迎えに来てくれるのは嬉しいけど、そんなにくっつかれると歩きにくいぞ」


「さなも嬉しいもん♪︎ ダメ……?」


 くっ……あざといっ……!

 10歳の幼女だからまだいいけど、中身が前世で敵だった悪魔だと思うとさらにあざとい!


 潤んだ瞳で俺を見上げる紗那さなは、全く離れる気配がない。


 仕方ない……俺がそうであるように、紗那さなも前世とは無関係だからな。



「まったく……これでいいか?」


「わっ! えへへ、お兄ちゃん大好き♡」



 紗那さなを抱き上げてやると、紗那さなは少し驚いた声をあげて頬を赤らめ、すぐに破顔して強く抱き締めてきた。


 ……普通の幼女だと考えれば、微笑ましいものか。



加賀人かがと君、見せびらかすのもいいけど、早く帰ろう?」


「見せびらかしているわけじゃないけど、それには賛成だ」



 女優顔負けの美貌を持つ麗那れいなに引き続き、天使のような可愛らしさの紗那さなの登場。


 俺に対する周囲の目がかなり歪んできたのが俺にも分かる。



 降りようとしない紗那さなの体重と温もりを感じつつ、麗那れいなの後についてその場を後にする。



「……世の中って不条理だよな……」



 誰かが呟いたのはその言葉は、その場に居た全員の気持ちを代弁していた。

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