ある意味魔王との戦いよりキツいんですが?

 夕飯の用意ができ、6人で食卓を囲む。

 ハンバーグやコーンポタージュなど手の込んだ豪華な夕食が並ぶが、他のことに気を取られていた俺は、ぼんやりとしたまま料理を口に運んでいた。


 いきなりの麗那れいなからのキスが衝撃的過ぎたうえ、まさかその後新那にいな紗那さなにも唇を奪われるとは……。



 同い年の新那にいなはともかく、小学生の紗那さなまで迫ってきた時には、俺の頭の中はもう空っぽだった。


 抵抗も反応もなくなった俺を心配してかそれ以上のことはされなかったけど、前世と前々世を合わせてもこんなに求められることなんてなかったから……いまだに何が起こったのか分かってない。



「お兄ちゃん、ほっぺにソース付いてる」


「ん……っ!?」



 何故か俺の膝の上に座っている紗那さなが、その小さな顔を近づけて俺の頬に付いたソースを舐め取る。


 この子、親父の前でも全く遠慮しないな!?

 紗那さなが幼女じゃなかったら許されないぞこれ……



「あらあら、とっても仲良しになったのね」


「なんだかんだ言いながら、加賀人かがともすっかり受け入れてるじゃないか」


加賀人かがと君がすっごく優しくて♪」


「私も、こんな弟ができて嬉しいですよ」



 俺の両隣に座っている麗那れいな新那にいなが、俺が何かを言う前に親父の言葉に応える。二人は、親の前では紗那さなのようにあからさまな行為はしないものの、机の下では脚を擦り付けてくる。


 ……思春期真っ只中の俺には刺激が強すぎるんですが……。



「これならすぐにでも引っ越ししても大丈夫そうだな」


「ふふ、私はいつでも良いですよ」


「それなら、早く準備を終わらせて明後日にでも引っ越ししましょう?」


「明後日か……知り合いに頼めば何とかなるかもしれないな。少し無理を言うことにはなるが……」


「それなら早めに荷物纏めないとね♪」


「明後日から一緒に暮らせるって! 嬉しいね、お兄ちゃん♪」



 満面の笑みを浮かべる紗那さなに、俺はただ頷くことしかできない。

明後日からこれが毎日続くと考えると……俺の貞操は無事で済むのだろうか。



        ♢♢♢♢



 食事会を終え、ちょっとした懇親会を開いた。

 ルヴィリエ……綾那あやなさんは、今世ではファッションデザイナーとして活躍しているそうで、親父とは仕事の関係で出会ったらしい。


 その他、麗那れいな新那にいなが彼氏いないアピールをしてきたり、紗那さなが親父の目も気にせず甘えてきたり……。


 まぁとにかく、俺としては気が休まらなかった懇親会だった。



 今は、親父が彼女達を家まで送り、ついさっき帰ってきたところだ。



綾那あやなさんの夕飯、美味かったな」


「それは確かに……」


「そうだろう? もちろん料理だけじゃない。仕事でも活躍しているし、知識も豊富。気品があって優雅で、お前のことも大切にしてくれる。私にはもったいないぐらいの女性だよ」


「親父がぞっこんなのはよく分かったよ」


「めっちゃラブラブだぞ」


「親父の口から『ラブラブ』とか聞きたくねぇわ……」


「お前だって、麗那れいなちゃん達に随分気に入られてたな?」


「あんな美人にあれだけ絡まれることなんてないから、緊張して吐きそうだった……」


「お前……強く生きろよ」


「……今まで親父から聞いた言葉の中で一番感情が籠ってたよ。あんな美人と再婚できるからって浮かれ過ぎだ。とりあえず一発殴っていいか?」


「断る」



 いつもより明らかに口数が多いし、微妙に若い世代のノリについて来ようとする感じがちょっとキモい。表情には出てないけど、浮かれてるのはバレバレだ。



「とにかく、明日中には家の掃除を終えておかないとな。私は仕事だし、お前も学校があるから……仕方ない、今回は家事代行を頼るか」


「……明後日っていうのは無茶だったんじゃねぇの?」



 こっちは親父が浮かれてたせいで、再婚なんて今日初めて聞いたぐらいだし、そのうえ明後日から同棲とか信じられないのが本音だ。


 ひとまず、彼女達に復讐の意思がなくて安心したけど……それ以上に大変な日常になりそうだ。



 ねぇ神様、三周目にしてこの試練はちょっとキツくないですか?

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