今世では、絶対逃がさないから……

「それで、何が目的なんだ? カミーリア、エイリア、フレシア」


「あら、流石は『救世の勇者』……私達に気付いていたのね。でも、この世界ではこの世界での名前で呼んで欲しいわ」



 親父に聞かれないようにキッチンを離れたところで、俺は核心へと切り込んだ。


 のらりくらりとかわそうとする麗那れいなであったが、俺の目が本気だと悟ったのだろう。



「……あなたが警戒するのも無理はないわね。あなたからすれば、殺したはずの相手が復活してきたんだもの」


「でも安心して? 加賀人かがとと同じで、私たちも今は何の力も持ってないから」



 新那にいなの補足に、俺は確かに、と納得する。俺が感じ取れないだけかもしれないが、彼女達に何か特別な力があるとは思えない。


 ……だからこそ、今になって接触してきた意図が分からない。



「なら何故だ? 転生してまで俺を追ってくるなんて、相当強い何らかの願いと、神様の力がなければ不可能なはずだ」


「……それはこんな廊下で話すことではないわね。あなたの部屋に案内してくれたら、そこで全て話しましょう?」



 麗那れいなは引く気がない様子。

 目的が分からない相手を自分の部屋に招くのは少々気が引けるけど……こればかりは仕方がないか。



「分かった。とりあえず腰を据えて話をしようか」


「えぇ、ぜひ」











 部屋のドアを開け、3人を招き入れる。

 自分一人だったらちょっと広くて寂しい部屋だけど、さらに3人も入るとなると少し狭く感じる。



「へー、普通に男の子してるのね」


「でもちょっと殺風景ね」



 ……端から見れば、これって美少女を3人も自分の部屋に連れ込んでることになるのか。前世の関係があって警戒してばかりだったけど、なかなか凄いことしてるんじゃないか……?


 いや、騙されるな。

 いくら見た目が良くても、俺と殺し合った魔王の幹部たちだ。

 何かを企んでいるに違いない。



 俺はなるべく彼女達を意識しないよう、ベッドに腰掛けながら話を続ける。



「さて……お前たちの目的を教えてもらおうか? 当然、隠し事はナシだ」


「……新那にいな紗那さな


「「オッケーッ!」」


「なっ……!?」



 突然、新那にいなが俺の左腕を、紗那さなが俺の右腕を取ってベッドに押さえつける。突然のことに反応できなかった俺は、自由を奪われてベッドに仰向けに倒れることになった。


 正面からは、獲物を狩る目をした麗那れいなが舌舐めずりをしながらゆっくり迫ってくるのが見える。



「お前らっ、ついに本性を———」


「んっ……」



 突然、口を塞がれる。


 ふわりと鼻腔を擽る、甘い香り。

 唇に感じる、夢のような柔らかさと暖かさ。

 驚くほど近くにある麗那れいなの顔に、俺の頭は真っ白になる。



 麗那れいなの細くしなやかな指が俺の頬をなぞり、混乱する俺の唇をほぐすように麗那れいなの舌が——



「っ!?」


「んぁっ」



 ハッと我に返った俺が抵抗すると、麗那れいなは名残惜しそうにゆっくりと唇を離す。


 麗那れいなの小さな口から覗く舌と、その舌先から糸を引く唾液に、俺の心臓は張り裂けそうなほどに早鐘を打ち始める。



「っ!!?!??!?!!」


「あら、嫌だった?」



 いつの間にか仰向けの俺に馬乗りになっている麗那れいなは、妖艶な笑みを浮かべながら高揚を隠し切れない様子で服の上から俺の胸部を撫でる。



「なっ、えっ、何を———」


「何って、私達の気持ちを分かってもらうには、これが一番早いでしょ?」


加賀人かがとなら分かるでしょ? あんなに殺し合った愛し合った仲なんだから」


「さな達は、あの時からずっと、お兄ちゃんのことを想ってたんだよ?」



 左右の耳元で囁く新那にいな紗那さなの声に、ゾクゾクと身体が震える。さっきまでの恐怖とはまた違う、狼に狙われる兎になった気分だ。


 左腕は新那にいなの思ったより大きな胸に沈み、右腕は紗那さなの太ももに挟まれて身動きが取れない。



 混乱が収まらない俺を差し置き、麗那れいな達は募っていた想いの丈を正直にぶつけてくる。



「私達悪魔は良くも悪くも正直だから……強い人に惹かれてしまうのよ」


加賀人かがととの戦いで、私達に『あなた』という存在が私達に刻まれてしまったの。身体に、心に、魂に、深く、はっきりと……」


「転生しても消えないほどに、ね?」


「「「ねぇ、私達をこんな体にした責任、取ってくれるでしょ?」」」



 紅潮した頬に深く妖艶な笑みを浮かべる新那にいな紗那さなが、ゆっくりと俺に顔を近づける。


 この時、俺はもう二度と離れられないのだと悟った。

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