探偵は忘れない

御槍 翠葉

零頁


~また君と~

カップを手に持ち、啜る飲み物は私の喉に甘みと癒しをもたらしてくれる。それは今の私には贅沢に感じさせるほど甘く、大袈裟と思う程に私の喉を癒してくれる。ソーサーの上にカップを置き、私は黒い机の上に置かれたティーセットの隣にある日記に目をやる。

まだその日記の中を見た訳ではないが私はその中に何が綴られているのかを知っていた。それは彼の...探偵の過去と思い出。

私は彼があれからどのような生活をどのような体験をどのような経験をしたのか少し気になり日記に手を伸ばす。

古ぼけた紙は何度も読み込まれた跡があり、彼は私が死んでからもこれを愛用していたのだろうとわかる。

何時かに新しいのに変えれば良いと言ったが彼は「これは俺の思い出だから」と頑なに新しい冊子を買わなかった事があったのを思い出す。

なんだか懐かしいな、私はそんな言葉が口から出そうになり口を噤む。

それはプライドと言えばプライドによるものだった。

それを口にするという事は未練を遺してしまったと言う事になってしまう。

私はそれを言葉にはしないように彼が綴った日記を開く。

そこには彼についてが書かれていた。

どんな人間か、何があったのか、それからは周辺の人の紹介、そして私と会った日から4年分の出来事全部、それが日記には書かれていた。

4年間、それ以降の事は日記には記されていなかった。だがそれは何も彼が書くのが面倒になったなんて事は無い。

それは彼が書く必要が無くなったが故にそうなってしまったのだ。そう、彼の記憶障害は綺麗さっぱり治っていたのだ。

だからこそこの日記は必要なくなったのだ。

だってもう探偵は忘れないのだから。

故に私は彼が見て感じた物語を、彼が記憶障害を治すに至った話を読むことにした。

これは探偵の記憶障害を治す為の物語だ。

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