第2話:やめとけ、宇宙人には挑むな
俺には心の底から好きな人がいる。……言っておくが、陽太のことじゃないぞ。
さっきの屋上が告白スポットと紹介したのは、そういう振りじゃない。……振りじゃないぞ。
俺たちの所属している園芸部。その中でも、唯一の後輩である。
はっきり言おう。一目ぼれだった。
ということでそんな大好きな彼女を紹介をしようと思う。
――まず身長は女子の平均くらい。小柄で華奢。だけど、ボニーテルとの組み合わせが快活なスポーツ少女をイメージさせる。まあ実態はスポーツ少女とは無縁だけどね。一番大事なことは大変魅力的な女子であること。この一点に尽きる。
そんな彼女が、なんでこんな部活に入部してくれたのかはよく知らない。
そしてこれまた不思議なことに、入部したての頃から俺とよく会話をしていた。そのおかげで、今ではくだらない冗談を言い合うような仲だ。
授業の内容そっちのけで、俺の容量の少ない頭が萌絵ちゃんのことで埋め尽くされていくのは当然の成り行きだった。
日々のなんてことのない会話。笑いあったり、もう先輩! なんて言われることが嬉しすぎて、その思い出を家で噛み締めない日はない。
……きもい? うるせぇ。思春期の男子高校生なんてこんなもんだよ!
誰もがきもいという名のペットを飼いながらも学校生活を送ってんだ。
当然ながら俺は萌絵ちゃんに告白して恋人になりたかった。多分、萌絵ちゃんもその気があるような素振りを見せてきたので、脈ありだと確信している。
……そういう勘違いは黒歴史になるからやめておけ?
彼女持ちはいい加減口を閉じてもらっていいですかね。勘違いじゃないしーちゃんと証拠ありますしー。
ていうか、人の回想に茶々を入れないでくれますかね??
告白をして萌絵ちゃんとの甘々な日常を送れると信じていた。なんならその未来を何度も夢でも見たし、妄想もした。シュミレーションはバッチリだった。
これで、さっきから俺の回想に水を差すいけ好かないリア充と同じステージに立てる!
この時はまだそう思っていた。思えばこの頃が一番幸せだったかもしれない。
……彼女が一人できたくらいで僕と対等だと思ったのか? その程度のレベルはとうの昔に通り過ぎている? んだとてめぇ!
まあ、そんなわけで順調に一歩ずつ恋人への階段を昇っているはずだった。
だけど、階段だと思っていた段差は実は下りへと逆走するエスカレーターだと気が付いたのが一か月前。
「あれ、部室にいるの幸ちゃんだけ?」
放課後になり、それになりに時間が経過していた。空にはお月様が登場しつつある。
部室に誰もやってこない事実にちょっと傷ついている中、ようやく部員がやってきた。
誰かと思えば、綾香さんだった。
小柄で身長は女子の中でもかなり低く、ぴょこぴょことよく動き回っている。肩まで伸びている髪に、愛嬌のある顔をしているのだけど、時々言動がマジで意味不明。異性はもちろんのこと、同性にすら匙を投げられている。正真正銘のミステリー女子だ。断じてミステリアスではない。
初対面で、Dカップと謎の自己紹介をされたことからも察してくれ。
「そうだよ。みんな今日は予定があるとかで来ない」
「ハブられたんだ~」
「ちゃうわ! 本気でヘコみそうな発言は禁止!」
一応活動日なのに誰も来ないのってそういうこと……?
いやいやないないない。からかわれているだけだ。いつものように俺をダシに笑いたいだけだ。……そうだよねそうに決まっているよね??
「ふふふ。ごめんよ。ついイジリたくなっちゃた♪」
「綾香さんといい陽太といい、俺を使って遊びやがって。そんなに面白い玩具なのかよ俺は」
「うん」
「即答すんじゃないよ。あとせめて玩具であることは否定して!?」
「梅ちゃんだって同じこと言うよ」
確かにここに来たのが綾香さんじゃなくて陽太であっても同じこと言いそうだ。しかも一言一句違わずに。
こいつら人の顔を被った悪魔か。
「そっかー。じゃあ今日の活動どうするの?」
「お休みでいいよ」
「放置していいの?」
「畑だって人の顔を見たくない日もあるよ」
「友達のいない思考マジうける」
「俺の話とは一言も言ってない!」
ふふふふふ。と人を馬鹿にしたようにやけながら、俺の真向かいの席に座った。どうやらここでゆっくりするらしい。
「幸ちゃんと二人っきりか~。どうしよ。なにかされちゃうかも~」
キャーっと言いながら、肩を抱き左右に揺れる綾香さん。
「誰が宇宙人と乳繰り合うか。俺は不純異星交遊をする趣味はない」
「うっわ~傷ついた。ピュアな乙女に向かって何てこと言うんだい」
「地球人に帰化したいのなら、そのユラユラと気持ち悪い動きをやめるんだ」
「ワレワレハ宇宙人ダ」
「喉を小刻みにたたきながら言うな!」
いつもこれだよ。綾香さんと二人っきりになると俺がツッコミ役を無理やりやらされる。
綾香さんのお世話は陽太の仕事だ。厄介な仕事を置いて帰るな。職務怠慢で訴えるぞ。
「でも、幸ちゃんにはそんな勇気はないか~」
残念、と言いながらパイプ椅子を前後に揺らす。横は駄目だからって、縦にゆらしていいとは言ってないよ?
「俺だって一応は男なんだよ。そんな油断だらけの姿を見せていると狼に変身するぞ」
「狼vs宇宙人」
「駄目だ。宇宙人に勝てる気がしねぇぇぇぇ」
「ふっふふふ。ここが足りてないよ。ここが」
綾香さんは自分のこめかみをトントンと叩きながら、自慢げに自慢の胸を張った。
落ち着け落ち着け落ち着け。これは罠だ。これまでの失敗を生かせ俺の本能……!
「……でもね。もしも幸ちゃんがそんなことしたら、悲しむ女の子がいるからやめなよ?」
急に真面目なトーンで珍しくまともなことを言い出した。そのせいでついつい真面目にその発言について考えてしまった。
……誰の事だ? もしかして萌絵ちゃんのこと言ってる? いやいや綾香さんとは恋バナなんてしたことがない。だって、話をした後を考えると恐ろしくてできっこないし。
駄目だ落ち着け有坂幸太郎。こんな宇宙人の言葉に惑わされるんじゃない!
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