第一章 心の二股は死刑です

第1話:反省会

 バ、バカな。俺のこと好きじゃないの? なんで??

 じゃあここ最近の俺の悩みは何だったんだ!?

 お察しの通り、昨日のショックからいまだに立ち直れていない。

 死に体でかろうじて登校したものの、机に顔を埋めながら絶望的な気分に沈んでいた。このまま机と同化したい。

「おいどうした?」

 何か聞こえた。多分俺に話しかけて気がする。気だるげに声に反応してみたら、目の前には野生のイケメンがいた。

「陽太~。もう俺は駄目だ。あかん」

「……死にかけの魚のような目でなんとなく察した」

 くそぉう。察しのいい奴め。まずは何があったか話させろよ。これじゃ愚痴れないじゃないか。察しのいいイケメンは爆ぜてしまえ。

「……どうせ僕のこと爆ぜてしまえとか思っているでしょ? はいはい、どうしたどうした。話聞いてあげるから」

 くそぉマジで優しいなこいつ!

「……そうやって空気を読むイケメンは禿げてしまえ」

「いいからとっとと話せ!」

 ちくしょ。満点回答ばかり出しやがってよぉ。……でも相談に乗ってくれたし、何があったかことの顛末くらいはちゃんと言わないとな。やっぱり心を許す親友にはもっと親切に対応してあげないと。

 友人への思いやりを糧になんとか姿勢を正し、いかにも大事なご報告がございますと言わんばかりの誠意のこもった顔をばっちり決めた。

「実はな……」

「あ、ごめん。彼女からメッセージ来たからちょっと待って」

 てめぇぇぇぇぇぇぇえ。



「んで。土屋に告白したんだろ。なんですぐ連絡してこなかった?」

「それどころじゃなかったんだよ!」

「なんだよ。落ち込んだりキレたり忙しい奴だな」

 そりゃキレもするわ! 結局予鈴がなるまでずっとメッセージ続けやがって。

 何が悲しくて、朝からイチャコラを見せつけられなきゃいけないってんだ! 

 もっと友人を大切にしやがれ。そして俺の思いやりを返せ!

「しょーがないだろ。一応悪いとは思っているんだ。だからこうして昼休みに時間を取ってあげたわけだし」

「その点は感謝してる」

 苦しゅうない、と調子の良さそうな顔でカロリーメイトの箱を開けだす陽太。

「え、なんでそんな偉そうなの?」

 いつものチョコ味のカロリーメイトを袋から取り出し、中身をコキッと口で割りながら咀嚼する。そして、空いているもう片手ではスマホをいじりだした。

「おい、それどう見たって話を聞く体勢じゃないよな?」

 この全く人の話を聞く態度を見せないイケメンの名前は梅崎陽太うめざきようた。俺の数少ない友人の一人だ。眼鏡をかけているおかげで、元々少し険のある顔がインテリさを想起させている。

 そして、俺の抱えている悩みの唯一の相談相手でもある……のだが。

「もぐもぐもぐ。……あるって。どうせ碌な話じゃないんだ。お前の相手なんて片手間で十分」

「どっからどう見たって両手塞がってるんだが」

「うるせぇな。いいから早く話せよ。寒いんだよここ」

 昼休みを迎え、昼食と共に朝できなかった話をしようと俺たちは屋上に移動していた。

 夏も終わり紅葉を楽しむ時期が近付いてきたので、屋上は少し冷える。更には、風がさっきからビュービュー言ってる。結構寒い。半袖で来る場所じゃなかった。

 じゃあ一体なんでこんなところで、凍えそうにながら密談をしているかと言うとだ。

 屋上はさっき言った通り長時間居座りたいとは思わない場所。逆に言うと人に聞かれたくない話をするにはもってこいなのだ。因みにうちの高校では、有名な告白スポットの一つに数えられていたりもする。もっと他にいい場所探せよ……。

「昨日、土屋に告白したんだけど……」

「振られたか」

「先に言うな!」

「幸ちゃんの話は長い。結論を先に行ってくれ」

「そうだよ。振られたんだよ!」

 うぅっ。また涙が零れてきそうだ。

 ……だってのにこいつ、俺の涙に気づくどころか、ずっとスマホ見てやがる。やっぱ話聞く気ないよね??

「でもさ、

 もう食べ終わったようで、二つ目の袋を手にしながら一応返事はくれた。涙には目もくれないけどな。

「そりゃそうだけど。でも、予定とは大分違う。振ったんじゃない。振られたんだぞ」

「……別にどっちでもよくないか?」

「よくないわアホ! その眼鏡かち割るぞ」

「だって、どちらにしろ付き合うことはなかったんだし。それに、ぷっ、振られた方が、ぷっぷっ、幸ちゃんらしいぜ?」

 あはははっはと。我慢ができずに爆笑しだした陽太。

 ……こ、こいつマジで腹立つ。

「陽太。貴様との縁はここまでのようだな」

「はははっは……っと。へぇ、ならこっちも契約は解約ということで。なお、当店は解約後の再契約は承っておりませんので、それではさようなら」

「まってまってまって。嘘です嘘。そんなことしませんからぁ。こんなところで見捨てないでぇ。俺たち友達だろぉぉぉぉぉ?」

「……言っておくけど、その友人を先に見限ろうとしたのはお前だからな?」

 謝罪として、俺の昼飯用のパンを一つあげた。

 カロリーメイトだけじゃ足りなかったのか、パンの袋を開け、またもぐもぐと食べだした。……やっぱ足りてねぇのかよ。

「でだ。確かに振られたのは予定外だったけどよ。結果オーライだろ?」

「いや、それが大問題発生なんだよ。振られた理由なんだと思う?」

「クズと付き合う趣味はない?」

「言いそう! 確かに言いそうだけども! そうじゃない」

「じゃあなんだよ。もったいぶらずに言え」

「『誰がてめぇのことなんて好きになるかぁぁぁ』だって」

「はぁ?」

 想像もしていなかったのか、一体どういうことだと今日一番の反応をくれた。

 ……ていうかようやくこっち向いたよ。人と会話するときはきちんと目をみろってママに教わらなかったのか。

 でも、陽太の反応はもっともなのだ。なぜなら、ありえないのだ。常に冷静沈着で人を見下すような陽太でさえも、仰天するほどの展開なのだ。なにそれ結構なクズじゃんそれ。そんなやつが親友って大丈夫なのか俺……。

 いかんいかん。本題からそれてしまった。

 本題に戻ろう。俺たちがどうしてこんなにも驚きあたふたしている(それは俺だけ?)かというと、ここ最近俺たちはとある噂を聞いたのだ。



 その噂は、



 だからあの日、俺は振られるのではなく振るために告白した。

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