8-3

 私達はバイトがあるからと、早々に帰ることにしていたんだけど、帰るという前の日、皆で集まってお昼ご飯を食べようとなって、その日は伊織利さんのお父さんも私に会いたいからとこっちの家に帰ってると言うことだったのだ。


 私は、紺のベストワンピースにレースの半袖のボレロをお母さんが用意してくれていた。それと、小さなバラの髪飾りも用意してくれていた。


「向こうのお父様にもご挨拶するのですから、出来るだけ清楚な娘って感じでね」と、お母さんの方が緊張しているみたいだった。


 リビングに通されて、そのお父さんという人に私達がご挨拶をして、顔を上げると


「・・・」そのお父さんは、しばらく私の顔を見ていて、声が出なかったみたいだった。そして


「いや 失礼しました 以前 どこかでお会いしたようなー 初めてですよねー いや すごく きれいな娘さんですね」


「あなた 失礼ですよ だから とっても 気立てが良くてきれいな娘さんだって言ってあったでしょ そんなに じろじろと失礼ですよ」と、おばさんに咎められていた。 


 そのお父さんは、朝 京都からこっちに来たみたいで、途中 お昼用にと寿司桶を買ってきたというものを皆で囲んでいて、お母さんもおばさんも冷たい日本酒を飲んでいた。


「真織さんは 伊織利と お互い 好意を持ってくれているとかで 有難いんだが 大学生活はどうですか? 女の子の独り生活なんだろう?」と、突然お父さんに問いかけられて


「はい 仲の良いお友達も増えましたし 伊織利さんも居るから心強いです 毎日が楽しいです」


「それは 良かった でも お母さんも ずいぶんと思い切りましたね! 心配でしょう?」


「はい それは・・・ でも 真織は 我が子ながら 親の私が言うのもなんですが どうどうと自慢できるぐらいに とっても出来た良い子なんです その子がどうしてもって・・・ だから この子のことを信用しようって 諦めたのですよー それに 先輩の息子さんなら間違いないだろうって」


「まぁ 慶ちゃん 伊織利にも 強く言ってあるのよ 間違いだけは起こすなって 慶ちゃんの宝物だものねー」


「そうだよ 伊織利 身近にこんなに美人なんだからー 男なら我慢出来ないことだってあるだろうがー 泣かすようなことだけはするなよ!」


「あなた! 酔ってらっしゃるの? どういう意味ですか!」


「あっ いや この場で言うことじゃぁなかったな もう ひとつ 酔いついでに言うと 昔 夢を見たことがあってな 池の中からとってもきれいな女の人が現れて 何かを語り掛けるんじゃー だけど 何を言っているのかはわからないんだ その時 波が大きくなって 池の中に消えて行ってしまうんだが その人がな 真織さんに・・・ いや すまない! さっき 一瞬 驚いてしまって その人の顔がはっきりと見えたような気になってしまったからー」


 私は、その時 自分の膝が震え出していて、押さえていたら 隣に座っていた伊織利さんが


「マオ 俺がここに居る 大丈夫だ」と、私の肩を抱いてくれていた。


「お父さん 不思議話はいいよ! マオはそーいう話に 今 敏感になってるんだ ここに居るマオはマオなんだからー」


「あっ すまん すまん 真織さんも つい 他人のように思えなくってなー」


「他人だよ! 俺が 嫁さんとしてもらうまではな!」


「まぁ 伊織莉さんって 心強いわねー 真織を安心して預けられるわー」と、お母さんもお酒で少しいい気分になってきてるのかしらー


 その後は、私が 峰ちゃんクラブのこととかをお話していて、又 三方五湖の話になって


「いや 今回 伊織利のおかげで縦帯家のルーツがはっきりしたよ。僕もね 子供の頃はそれとなく聞いていたんだがなー 縦帯の名前の謂われってな 帯の結び目は普通 横に結ぶだろう? だけど 縦帯家では帯の結び目を縦になるようにして 梅の収穫の籠を自分の前に持ってきて、そこに引っかかるようにしたらしい それで縦帯になったとか どうも怪しい話だ それだけじゃぁ無いんだ 三つの石にもお詣りしたろう? 何故か そこに梅干しと大根をお供えするのが縦帯家なんだ ご先祖様が大根も作っていたみたいだなー 昔 梅を敦賀まで運んで、その時に 大根の苗を手に入れたそうな 福井の山ん中の地方の辛み大根 その名残かなぁー」と、お父さんが又 話し出した。


「でも 縦帯のご先祖様は頑張ってたんだなーって 今回 初めてわかったよー すごいよー あの地方の梅の先駆者なんだからなー ねぇ お父さんはどうして 跡を継がなかったの?」伊織利さんは話しを逸らしたみたいだったけど・・・大根・・・福井の山の中の・・・きっと 伊織利さんも伊吹起って人が福井と関わりがあるってことを信じているんだと だから夜叉が池でその大根をお供えしていたんだと私は感じていた。


「うーん 伊二朗がな 中学の時から好きな女の子が居て お互い 好いただの惚れただので 皆が公認の仲だった 二人とも 地元だろう だから、一緒になっても そこに留まるようなもんだ あんな狭いとこ二人でやっても喰っていけないよ だから僕は長男だけど 弟にあそこを任せて家を出るようにしたんだ」


「なるほどなぁー でなければ 俺は 梅農家を継ぐってことになってたのかなぁー すると マオとも出会うきっかけもなかったのか」


「そんなことないよーぅ きっと 梅干しがきっかけで どこかで出会っていたのよー」と、私は、何故か彼の言葉が悲しかったのだ。


「そーだな きっと 糸と梅が 結び付けてくれるよなー」と、伊織利さんは私の手を握ってくれていた。うれしかった 私 

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