8-1-2
叔父さんは、陣屋という家まで案内してくれて、そこのおばあさんが応対してくれた。
「なんもー うちなんか 田舎の百姓だで なーも 昔のことなんか書いたもんありゃせんがなー ワシが嫁に来た時には、この家にも立派な蔵があったんじゃが無くなってしもーた」
「そーですか なんか ご先祖様の話 聞いて無いですか? どうして梅林だったのかとか」
「だのー ワシがここンちに嫁に来て 蔵ん中で、紙を綴じたのを見たことがある そこにはな たぶん江戸の昔に書かれたんじゃろーな 平仮名ばっかりで、詳しいことは読めなかったんじゃが この家のご先祖様に 多分 平太という名前の人がおってなぁー いつのことかわからんが 東のほうから山を越えて、一人の旅人が現れて
「その旅人って イラブって人じゃーないですか?」と、私は焦っていた。
「名前は書いてなかったと思う。じゃけん 数年後、よぉけぇー梅の実が成りだして、銭に替えれるようになってきたんじゃ すると、若者達はその人の名前に綾かって、自分の名前の最後に夫の字を付け出したそうな だから ウチのご先祖様も平太夫となったそうな どうも怪しい話だがな」
「ねぇ きっと 伊良夫 の 夫 ヨッ! ねぇ イオ」
「うっ う~ん・・・でも ウチの先祖の伊吹起とは・・・」
「こんなことも書いてあっただ その人はなひとりもんだったんじゃが・・・村の娘に手を出して、孕ませてなー その娘は隣の村に嫁に行くことが決まっていたんだ けんども・・その子が1歳になった時、赤子を置いて訳も無く突然姿を消したらしい 多分 村人の眼に耐えられなかったんじゃろてー そして、残された子供は、その旅人の人が育てたんだと思うが・・・そこまでは書いて無かったと思う・・ それにな、その人は採れた梅をな 鳥浜まで舟に乗せて、そこから敦賀まで運んで売るということまでやり出したらしい けんど、ある日 大風が吹いておるのに無理して舟で出て行って、そのまま帰らぬ人になったとあった だけんど村人はその人を祀って 墓石をその人の小屋の横に置いたそうだ その人が祀っていたという細長い二つの石の横に並べてな」
「きっと その子供がイブキさんよー きっと・・・」と、言う私を伊織利さんは黙ったまま呆れた眼で見ていた。そして、帰りにご先祖様と三つの墓石にお墓参りをして帰ってきたのだけども、それきり伊織利さんは無口になってしまっていた。
「なぁ あの三つの石 細長い二つは イラブさんが 夜叉が池のことを想って 龍神様と糸姫様を祀ったのよ きっと 三方湖は夜叉が池に似てるんちゃう? 横の墓石もイラブさんのだから 縦帯の人も代々 祀ってきたのよ!」と、私がイオに同意を求めても、彼は黙ったままだった。
伊織利さんのとこを出発する前におばさんから鰻を買って来てと頼まれていて、家に戻ると、晩ご飯も一緒に食べましょうよと誘われて、ごちそうになったのだけど、その間も伊織利さんは今日わかったことをおばさんに話す様子も無かったので、私も言い出せなかったのだ。
帰り 伊織利さんは私を家まで送ってくれたんだけど
「なぁ なんで 無口なん? おばさんにも今日のこと話さへんかったやん?」
「う~ん ちょっと 衝撃だった そんなことってあるのかって・・・話が繋がりすぎてて 不安なんだ 考えている マオと出会えたのも引き寄せられたからだなんて 思いたくないけど・・・」
「・・・でも それはそれで いいじゃぁない! ここに居る 真織は伊織利のことが・・・好きなんだものー」
次の日は、朝早く7時に伊織利さんが迎えにきた。夜叉が池を目指すのだ。二人とも無理をして登山靴を買っていた。ネットで調べて割と厳しい山道らしいのだ。
登山口に着いて、歩き始めて、途中小川を渡って1時間程で滝が見えた。そこで、休憩を取って、今度は途中から厳しい登山道になってきてロープなんかを頼りに登るとこもあったりもした。気楽にスニーカーなんかで来なくて良かったと思えるような。また、1時間程 苦闘しながらも登って 見えた 夜叉が池。
枯草なんかもジメジメと湿った小道を 恐る恐る降りて行って、池のほとりに着いた。手前は水が澄み切っていたが、奥のほうはだんだんと青い色から深い緑色で静まり返っていて鳥の鳴き声も聞こえない。
私は自然と手を合わせて拝んでいた。冷たい風が出てきて、湖面が小さく波うち始めて・・・私は震え出していたのかも知れない。その時、急に肩を抱かれているような・・・
「ひぇー」と、叫び声で・・・
「なに 驚いているんだよー」と、伊織利さんだった。
「驚かしてごめん 寒くて震えているようだったんでー」
「もぉーう まさか・・・と」と、私は伊織利さんの胸を叩いていたのだ。そして、持ってきた三方の梅干し・・・用意してたのを思い出して、伊良夫さんのだよと 池の水際に置いてきた。だけど、伊織利さんは それとなく大根を供えていたのだ。帰り道に、私は、何を拝んでいたのか覚えて無かった。おそらく、私と伊織利さんが出会ったことを報告していたのだろう。伊良夫さんと幸せになりますと・・・だから、池を去る前に、伊織利さんに抱き締めてキスしてとせがんでいたのだ。幸せの証にと・・・糸姫様に見てもらいたかった。
そして、お母さんに調べてもらったおばぁちゃんの実家の住所の所にも寄ってみたのだが、もう、別の人が新しい家を建てていて20年以上前になるということなので、その実家のことはわからなかったのだ。
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