第8章
8-1-1
春休みの4月になって、私と伊織利さんは帰省することにした。お昼頃には着いたので、その足で伊織利さんとこの車で三方地方に向かうことしていた。伊織利さんのお母さんが迎えてくれて
「まぁ 真織ちゃん きれいになってー」
「おばさん ご無沙汰してます」
「お正月は帰って来てたの?」
「いいえ 去年の夏以来です」
「そう どう? 大学のほうは?」
「はい 毎日 楽しくやってます それに 伊織利さんが側にいるので心強いです」
「お母さん 細かい話は 帰って来てから・・・直ぐに 出るんだ」
「あぁ そうね 早いうちに帰ってきなさいね 伊二朗さんには、お父さんから連絡してあるはずだから」
「それは 助かる 叔父さんは僕の顔なんかを忘れているだろうからー」
「そうね お義母さんのお葬式以来だから 伊織利さんが5歳の時かしら」
伊織利さんの叔父さんというのは、お父さんの弟さんで、梅農家の実家を継いでいるということを車の中で聞いたのだ。私は、伊織利さんが あの伊良夫という人の末裔なんだと半分信じて、今回はそれを確かめる為・・・。
山を越えて、田んぼの中を走って、1時間程で道の駅で休憩することにして
「わぁー 海?」
「ちゃう 湖 三方湖」
「そーなんだ 琵琶湖の子分かぁー」
「子分ってわけちゃうけどー この辺りには湖が5つあって 三方五湖って言われてるんだ」
「へぇー 海も近いの?」
「まぁ そんなに離れてないなー」
それから、湖に沿って、ぽちぽちと梅林とか直売所が出てきていて、少し山に向かって登ると、その叔父さんという人の家に着いた。周辺の家はどこも思っていたよりも大きくて、納屋も大きいのを備えていたのだ。その叔父さんらしき人も大きな納屋から出てきて
「やぁー 伊織利君 大きくなったなぁー あんまり昔の面影感じないけど さすがに、兄貴に似てきたのかなー」
「あっ おじさん ご無沙汰してます」
「お互い様だよー 突然 兄貴から電話もらってなー なんか ウチの先祖のルーツを調べたいとかなんだって?」
「はぁ まぁー わかればと思うんですけどー」
そして、家に上げてもらって、一冊の書物っぽいものを見せながら
「たいした家じゃぁ無いので、昔のものといったら これだけだった どうもおじいさんが明治に入って書いていたものらしい それによるとおじいさんのおじいさんがここに家を構えたみたいだ でも どうも その人は分家みたいだなー 縦帯って名乗ったのもその人らしいんだけど 定かじゃぁないんだ」
確かにそこには (天明元年 正月 祖父 伊吹起 ミツ ヲ 嫁トッテ 居ヲ此処ニ構ヘル イライ 元締衆ノ梅ヲ 売ル為 舟デ ハコブ) と、記してあった。墨が薄かったが何とか読めたのだ。
「どうも それから数えるとワシは5代目ということになるんじゃがー そのイブキという人が何処の出身でとかは書かれていないんじゃー おそらく、此処の生まれだと思うんじゃがー だけんどーぉ 代々 先祖の墓とは別に 湖のほとりに細長い墓石が二つと丸ぁるい石と三つ並んであるのだけんどぉーおぅ どういう訳がぁーあ そこには 盆暮れには 梅干しと大根を添えると言う仕来りが縦帯の家にはあるんじゃー たぶん 祀らにゃー あかん人のものじゃってーえぇー」
「ここに書かれている 元締衆ってのは?」
「あー 多分 ここいらの有力農家かのーぅ 何人かで此処の梅を栽培し始めたらしいからー そうだ 陣屋さんとこ この坂を下って、右に行って次の坂を上がったとこの立派な家じゃ そこは古くから梅をやっているから なんかわかるかもなー」
「ねぇ イオ 叔父様が伊二朗でしょ? それで、伊織利 ここに出て来る人もイブキって なんか繋がりあるの?」
「あぁ どういう訳か 縦帯の男子はみんな 最初に伊を使った名前なんだよ おじいさんも 伊之平だった」
「へぇー いらぶさんも 伊だよ と 思う」
「・・・マオ まだ 確かなことはわからないよ その陣屋さんのとこに行って見よう だけど 思い込みはダメだよ 確実なとこを確かめるんだからな!」
だけど、伊二朗おじさんは 伊吹起⇒???⇒縦帯伊之助⇒縦帯伊之平⇒縦帯伊一朗・伊二朗 が縦帯家代々の名前だと教えてくれた。私は、伊織利さんから思い込むなと釘を刺されていたけど、その時 伊吹起のお父さんが伊良夫さんじゃぁないかと確信していたのだ。
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