第36話 義妹と家族でご飯

「ここ……かな」

「うん」


 俺たちは駅近くのビルにやってきた。

 

 今日はこの中に入っている日本食のお店で食事ということらしい。べつにもっと普通のファミレスとかでもいいのだが、なにか謎の圧力とかがあるのだろうか。

 

 一階で案内などを確認しつつ、目当てのフロアまでエレベーターに乗っていく。

 

 もうすぐ両親と会うからか、まといはパーカーを脱いでいた。

 人もそこそこ多いからフードをかぶりたいだろうに、ちょっとがんばっている様子に少し笑みがこぼれた。

 

 いや、客観的にはただパーカーを脱いだだけなんだがな……。

 

 エレベーターを降りると、そこには和風な空間が広がっていた。どうやらこのフロアはそういうコンセプトらしい。いかにも、「重要な会食とかしてます」感が漂ってくる。

 

「……前回もだったけど、場違い感が半端ねえな」

「……うん。でも、賑やかなところよりは助かる」


 そう言って少しほっとしたような顔を浮かべるまとい。

 

 なんか最初にファミレス行ったときより落ち着いている。まとい的には、この場所自体に緊張する要素はないらしい。そこにいるであろう人の多さとか、タイプが重要な要素のようだ。

 メンタルが強いんだか弱いんだかよくわからん……。

 

 思っていたより頼もしげなまといと共に、待ち合わせの店に入る。

 

 というか俺のほうがちょっと緊張してんだが。

 チラホラ見えるお客さんが、みんな優秀ですオーラとか、偉いですオーラばしばし出している。役職バトルしたら超強そう。

 

 まといのほうは大丈夫かな、と後ろを振り返ってみると、

 

「……なに?」

「いや……なんでもない」


 めっちゃ平気そうだった。

 しっかりステルス性能を発揮し、気配を消している。いつもどおりでなによりだよ……。

 

 流れのままに店の人についていくと、個室っぽいところに案内された。

 

 あの……ただ家族でご飯食べるだけですよね?

 もう一回顔合わせやんの?

 いちいち舞台がでかいんだよ……。

 

 そんなつっこみをぐっと飲み込み、案内された個室に入った。

 

 

 

「よう、稜人。久しぶりだな! まといちゃんも、高校入学おめでとう!」

「おう」

「あ、ありがとうございます……」


 中に入ると、すぐに親父が声をかけてくれた。

 俺が反射的に返した隣で、まといがぺこりとお辞儀する。

 

 見ると、どうやら登子とうこさんはまだらしい。

 そのせいか、まといもちょっと固くなっている。親父が相手でもそうなるのは仕方ないか、二回目だし。

 

 っていうか……おまえは普通に猫かぶんのかよ!

 俺にはいつもどおりでいいって言ってたくせに……。

 

 若干の不公平感を抱きながらも、軽い挨拶を済ませ、テーブルに着いた。

 

「まといちゃん、稜人たかとはしっかり兄貴やれてるか? いじめられたりしてないかい?」


 親父が心配そうに訊いてくる。

 

 心配だったらふたり暮らしなんてさせんな、っていうのは……もう負けな気がする。もうそういうレベルでいろいろすっとばしてるからな。

 

「あ、はい。……稜人くん、すごくやさしくて……いっぱい助けてもらってます」


 ビシっと背筋を伸ばし、清楚で儚げな笑みで言うまとい。

 

 いや誰だよおまえ。

 いつもはうつむきがちで怯えてて、さっきは死にそうな顔してただろ。

 

 そんな表情で言われたら、せっかくのいいセリフも胡散臭いっつーの……。

 

「そうか、ならよかった……」


 俺が兄貴をやれていることに安堵したのか、まといがいじめられたりしてないことに安堵したのか、どっちなのかわからないが……ともかく親父は安心してくれたようだ。いちおうは親らしい部分もあったらしい。

 

 ま、とりあえずこっちはオッケーかな……。


 その後、親父は俺の幼いころの話を持ち出し、まといに聞かせていた。

 

 場の空気を和ませようとしてくれているのはわかるが、今それを話さなくてもいいのにと恨めしく思う。なんだかまといに弱みを握られているみたいで落ち着かない。

 

 だが、いつの間にか、まといの表情もやわらかくなっていた。なんだかんだで親父はこういうの得意なんだよな。

 

 なんで俺はその能力を受け継がなかったのだろう……まといもだけど。






 

 そうしてしばらく三人で話していたとき、ドアの開く音がした。

 

「――ごめんなさい! 会議が遅れてしまって……」


 そう言って入ってきたのは、完全武装した登子さんだった。

 

 前回よりかは地味めだが、ビシっと決まったパンツスーツ。

 まといと同じ、白に近い水色の髪も綺麗にアップでまとめ、品の良さをアピール。

 さっき見た強そうなお客さんがモブキャラに見えてしまう――そのくらいのオーラがあった。

 

「いいよいいよ。ほら、こっちこっち」


 気にしてない感を出しながら言う親父。それに手を振って返す登子さん。

 

 なにげに俺はこの人らのやり取りをあまり知らない。どうあいだに入っていくかがけっこう悩ましいな。

 

 にしても……これほんとにまといの母ちゃんかよ……。

 ラスボス……っていうか、裏ボスって感じだな……。

 

 千賀ちかちゃんがラスボスで、登子さんが裏ボス……?

 そんなゲームぜってーやりたくねー……。

 

 カツンカツンとヒールの音も上品に奏でながらテーブルまでやってきた。

 

 そして、登子さんが荷物を置きながら、まといに視線を移したところで、

 

「――え? まとい、それ……」


 固まった。

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