第28話 義妹とゲームセンター

 ファミレスでゆっくりと休憩し、気持ちをリセットした俺たちは、ゲームセンターへ向かった。

 

 隣を歩くまといの姿はやはり目を引くのか、ショッピングモール内ですれ違う人もチラチラとこちらを見てくる。持ち前のステルス性能も強制オフになっているらしい。

 

「な、なんか……緊張するね」


 まといもさっきのでようやくまわりの視線に気づいたのか、顔がこわばっている。

 

「学校の予行演習と思えばいいんじゃないか」

「う、うん……そうだね。がんばる」


 そういう理由づけをされるとがんばっちゃうまといさん。ちょろい。

 

 慣れない雰囲気のせいか、足取りも少し遅いように感じる。

 

 まあ、ゲームセンターに着けば元気になるだろう。

 

 





「わぁ……ここがゲームセンター……!」


 まといが感動の声を漏らす。

 

 ゲームセンターのゾーンに足を踏み入れると、ガヤガヤとした客の声や、ゲーム台などの機械音が賑やかに耳に響く。

 

「なにからやる?」


 聞こえるように少し大きめの声でまといに訊くと、きょろきょろとして、ある台を指差した。

 

稜人たかと! お菓子の箱、落ちかかってるよ? 楽勝だから取っちゃおうよ」

「……おう、じゃあやってみろ」

「うん!」


 まといはクレーンのアームでお菓子を落とすタイプの台に目をつけた。

 

 ……ぶっちゃけどうなるかなんてわかりきっているが……ここはしっかり洗礼を受けさせてやるべきだろう。

 

 まといが少し頬を赤く染め、興奮気味にコインを投入。クレーンが動き出す。

 

 操作方法とかいちいち教えなくても、すぐに理解するあたりはさすがだと思う。陰キャのゲーマー的センスが無駄に光っている。

 

 小さな体をせわしなく動かし、視線の角度を変えたりしながら、器用にお菓子の箱の上空にクレーンを誘導していった。

 

「よしっ」


 思ったとおりにいったのか、まといが満足げな笑みを漏らす。


 そして、まといが操作したアームは、ぴったりとお菓子の箱に直撃した。

 

「落ちろ!」


 お菓子に向かって叫ぶまとい。

 

 が――その声も空しく、アームは赤子でも撫でるかのようにして、何事もなく上がっていった。

 

「……は?」

「ぶっ……」


 途端に意味不明そうに眉を寄せるまとい。声もびっくりするほど低い。

 

 テンプレみたいな反応に俺も思わず噴き出した。

 

「……ねえ稜人。あれ接着剤とかつけてない?」

「ないない」


 俺の返答に、まといはしかめっ面で少考すると、おもむろに二発目のコインを投入した。

 

 ……結構しつこいタイプなんだろうか。

 

 クレーンがふたたびお菓子の箱の上空に移動し、アームを振り下ろす。

 

「ぐっ……」


 が、やはり今回もアームはお菓子の箱をやさしく撫でると、満足して帰っていった。

 

「どうだ? 楽勝か?」


 煽り気味に言った俺の言葉に、まといがムスッとした顔で睨んでくる。

 

「……稜人、知ってたでしょ……」

「まあ、こういうもんだからな」 

「……ふーん……」


 まといはそう声を漏らすと、落ちかかっているお菓子の箱を見つめた。

 

「そっか、こういうのなんだ……」

 

 その表情からは、さっきまでの不機嫌オーラは感じ取れず、なにか噛みしめているようにも見えた。

 

「じゃ、次いこ稜人!」

「……おう」


 なにか納得したのか、まといはもとの笑顔に戻っていた。

 

 もうちょっと苦戦しているまといを見たかった気もするが、あまりそういうことをすると本当にいじけるかもしれないからやめておこう。

 

 そういうの根に持ちそうなところも垣間見えたしな……。

 

 

 

 

 

 その後は、定番のワニを叩いたり、太鼓を叩いたりなどをして満喫した。

 いつものクールなまといは姿を消し、ずっとオタクな状態のまといでいる。

 

 楽しんでくれているようでなによりだ。俺としても、今の恰好でクールなまといさんでいられると、脳が美少女と勘違いするから助かる。

 いや、実際に美少女ではあるんだが……。

 

 

 

 


「次はなにしようか!?」


 まといがゲームセンターを見渡しながらつぶやく。

 

 結構いろいろとやった。

 しかしまといはピンピンしており、疲れは見えない。

 むしろ俺のほうがちょっと疲れてきたレベルだ。

 

「時間的にはあと1、2個かな」


 スマホで時刻を確認し、そう告げる。

 

「そっか……」


 まといは少し残念そうな顔をして、ふたたびきょろきょろを始める。

 

 まあ、近くだからまた来ればいい。まといがいつもみたいな恰好だったら俺ももっとどっしり構えていられるし。

 

「あ、じゃあ……あれやろう?」

「どれ?」


 まといが指差した方向を見る。

 

「……ぬいぐるみか?」

「うん」


 クマのぬいぐるみを落とすクレーンゲームだった。

 

 こういうとこはしっかりお決まり投げてくるあたり、やっぱりまといだなと思う。よくわかっている。

 

 定番イベントはきっりち消化しにいくタイプだ。

 

 ……しなくていいやつまでするけどな。

 

「リビングのソファーに置いたらいい感じじゃない?」

「え? そうだな……」


 自分の部屋に置くんじゃないのかよ。

 べつにいいけどさ。

 

「んじゃ……やってみろよ」

「うん!」


 そうしてふたりで台の前に立つ。

 

 ターゲットのクマのぬいぐるみは、赤ん坊くらいの大きさはあった。

 

 やはりこちらも落ちかかっているが、たぶん見た目以上にしぶとい。

 

「落ちそうだし楽勝だね!」

「…………」


 にひひっと余裕の笑みを浮かべながら、まといがコインを投入する。

 

 えぇ……この人、さっき学んだんじゃないの?

 

 どんだけフラグ立てるの好きなの?

 

「ん~……」


 クレーンを動かしながら、難しい顔をするまとい。

 本人はいたって真剣なようだ。

 

 今回も視線の角度をあれこれ変えながら操作している。

 

 小動物みたいなその姿に、まわりの客も視線を奪われていた。

 

「よしっ」


 さっきとまったく同じ声を上げるまとい。

 

 俺は半目半笑いで見つめることしかできなかった。

 

「落ちろ!」


 うーん、ダメ押しのデジャヴ。ツーアウト。

 

 クレーンのアームがクマのぬいぐるみをかすめていく。

 

 

 

 

 

 その光景に、俺はゆっくりとまぶたを閉じながら、フッ、と口角を上げた。

 

 まあ、ようやく来たってもんだ。

 

 ――俺のターンが!

 

 俺だってちょっとはいいとこ見せたいお年頃なんだぜ?

 まといから尊敬の眼差しを向けられたいくらい思うさ。男の子だもの。

 

 では――稜人SUGEEE展開、いいすか?

 

 ちなみに、流れはこうだ。

 

 

 

 このあと、何度か挑戦するも、ぬいぐるみが取れなくて、まといがちょっと落ち込んじゃう。

 

 そんなまといをやさしく慰める俺。

 

 次に、いつものまといヒストリーを一発かましてもらう。

 どうせなんかあるだろ。

 

 そして、それっぽい雰囲気になったところで、日々つちかった俺のクレーンさばきで、まといがあきらめかけていたクマのぬいぐるみを華麗かっれーいに取り――

 

 

 

 

 

 

 

 ――ガコンッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ガコンッ????????

 

 

 

 

 

「稜人! 取れた! 取れたよ!?」

「…………え?」


 あれ?

 

 あれれ?

 

 どうしてこうなった?

 

 え、これあれでしょ?

 

 俺が取ってあげて、まといがうれしそうに抱きしめて、「宝物にするね」っていう……。

 

「やった! 初めて取れたよ!?」

「あ、ああ……やったな!」


 ぬいぐるみを抱きしめ、飛び跳ねながらはしゃぐまとい。

 

 意味不明な展開に合わせることしかできない俺。

 

「うん……! これ、宝物にするね!」

「お、おう……」




 ……思ってたんとチガーウ……。

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