第24話 義妹の友達

「で、どういうことなんだ?」


 スーパーで千賀ちかちゃんと遭遇し、まといに浮気(?)を疑われた日の夜。

 

 俺はリビングのソファーに座り、反対側に正座しているまといに向かって問いただしていた。

 

 ちなみにすぐに話し合わなかったのは、あまりのことに俺が現実逃避したかったのが理由である。

 

「そ、それが……いろいろ話してたら、いつの間にか個人情報いっぱいつかまれてて……それらを組み合わせたら、数学の問題みたいに解かれちゃった――みたいな?」

「なにそれ怖い……」


 なんか探偵みたいなことされてない?

 人生二週目ですって言われても信じちゃうよ俺。

 

 

 

 結局どういうことなのかというと、千賀ちゃんに俺たちがふたり暮らししているのがバレたらしい。

 おそらく、今日スーパーで俺が遭遇したときにはすでに知っていたのだろう。俺が頼みを聞かなかった場合、それを使って脅すつもりだったのかもしれない。

 

 まあでも、まといの友達だし、ずっと秘密にするというのは無理があったはずだ。そういう意味では千賀ちゃんでよかったのかもな。

 

 バレた相手が千賀ラスボスなのはデメリットもあるがメリットもある。

 強迫ネタを手に無理難題を要求される可能性もあるが、こちらも相手の弱みを持っているのだ。

 

 それに、あんなチートキャラが味方にいるのはやはり心強い。ぜひともまといには仲良くしてもらいたいところだ。俺は勘弁だが。

 

「ご、ごめんね……?」


 まといが正座のまま、申し訳なさそうに謝る。

 

「いいよべついに。千賀ちゃんはまわりに言いふらしたりするような子じゃないだろ?」

「う、うん!」


 むしろ言うぞ言うぞと脅して楽しむタイプだろう。言いふらしてお終い、なーんてそんなもったいないこと絶対にしない。どうせ今ごろ、「あのふたり、どうなってるかなー」とか、妄想してほくそ笑んでいるはずだ。

 

「千賀ちゃん来たら俺は自室に引っ込んでるよ。そのほうがいいだろ?」

「なんかごめん……」

「気にすんなって。俺もそのうち誰か友達呼ぶかもしれないんだから」

「う、うん……」


 その予定はまったくないが。

 っていうか、まといがつっこんでくれないせいで痛々しく聞こえてくる。

 

 ……話題を変えよう。

 

「そうだ、明後日あたり、約束してたアニメショップ行くか?」

「う、うん! 行く!」


 まといが瞳を輝かせて反応した。

 やっぱりまといはこうでないとな。

 

「んじゃ、今日はアニメでも見るか?」

「うん! あ、じゃあついでにココアもいれるね」

「おう」


 そう言ってまといはキッチンに向かっていった。

 こういうときいつもココアをいれたがっているが、楽しみなこととココアが結びついているのだろうか。

 

 まあ、これで本当に落ち着くはずだ。

 これ以上フラグを立てるわけにはいかないので、俺は無心で天井を眺めていた。

 






 翌日の昼過ぎ。

 いちおうお客様が来るので、まといと軽く掃除をしていた。

 

 まといも掃除は普通にできるので、今までの労力の半分で終わる。

 家事ができる人間がふたりになるというのは思っていたよりでかい。正直これに関してだけは親に感謝したいくらいだ。

 

 ちなみに千賀ちゃんは直接ここに来るらしい。

 いわく、「まといちゃん外に出るの苦手でしょ? 住所教えてくれたら行くから大丈夫だよ。友達なんだから助け合おうよ!」とのことだ。

 

 その言葉にまといは喜んでいたが……。

 

 それしれっと住所抜き取られてるからな!?

 

 そうやってふたりで暮らしてることがバレたんだろうなと思ったが、まといが落ち込みそうなので黙っておくことにした。

 

 

 

「こんなもんでいいかな」

「うん」


 満足のいく掃除ができたところで、チャイムが鳴った。

 

「……行くか?」

「ううん……稜人たかとおねがい」

「わかった……」


 まといのお客様だからまといが迎えるべきかと思いいてみたが、やはりこういうのはハードルが高いらしい。

 

 俺は玄関へと向かい、ドアを開けた。

 

「あ、こんにちはー☆」

「……こんにちは」


 そこには、両手いっぱいの紙袋を持った千賀ちゃんが、いつもの笑顔で立っていた。

 

「……どうしたのそれ?」

「あれ? まといちゃんから聞いてませんか? 服ですよ、服!」

「服?」

「今日はまといちゃんに服プレゼントしようと思ってー。まといちゃん、あんまりこういう服持ってないみたいだったから」


 こういう、というのはオシャレーな服のことだろうか。

 たしかにまといはいつもフード付きのパーカーばかり着ていた。友達と遊びに行くときに苦労しそうだなとは思っていたので助かると言えば助かる。俺にそういうセンスはないしな。

 

「ま、まあ……どうぞ」

「おじゃましまーす!」

 

 立ち話もなんなのでとりあえず中に案内する。

 

 そんなオシャレに詳しそうな千賀ちゃんの今日の服装は、ダボッとしたグレーのトレーナーに、ジーンズのショートパンツだ。髪も昨日みたいに後ろで縛っている。

 

 素足はもうプライドなのだとしても、かなり地味めに抑えてる感を受ける。

 

 まといのためにそうしているのだろうか。でもそれならなんで最初に……。

 

「あ、まといちゃんヤッホー」

「う、うん……やっほー……」


 おお、まといが受けて返した。

 前回はうめき声を上げるので精一杯だったまといが……!

 

 俺は保護者のような気持ちで感動していた。

 

 最初はあいだを取り持とうかと思っていたが、この分なら大丈夫そうだ。

 

「じゃ、俺は部屋にいるからごゆっくり」

「はーい」

「う、うん……」


 そう残し、俺は自室に入っていった。

 

 修司しゅうじの言ったとおり、なんだかんだうまくやってるみたいだな。

 

 





 1時間ほどがたった。

 

 部屋越しでもキャッキャッと声が聞こえてくる。まあ全部千賀ちゃんのものなんだが。

 

 それでも楽しそうにやっているらしいのでいいだろう。

 

 まあ、今日のこれが終わればほんとのほんとに落ち着くはずだ。ようやくゆっくりできるってもんだ。

 

 課題もキリのいいところまでやったし、残りの時間どうするかな。

 

 昨日この件で絶望して晩飯が手抜きになったから、今日はちょっと力入れるか。

 

 パソコンでブラウザを開き、なにかないかとレシピサイトを漁る。

 

 しばらくして、ピンとくるものを見つけた。

 

「……お、久しぶりに麻婆豆腐つく――」

 

 ――ドンッドンッ!

 

 瞬間、部屋のドアが叩かれる音がした。

 

「すいませーん。お兄さーん!」


 続けて魔王の声がした。

 

 なんでこの人毎回俺のささやかなひとときをぶち壊すの?

 

 俺はうなだれながらため息をし、ゆっくりとドアを開けた。

 

「あ、出てきた出てきた」

「……なに? いちおうお互い部屋にいるときは――」

「ほら見て見てー! まといちゃん、めちゃめちゃかわいくないですか?」


 俺の話を遮り、千賀ちゃんがジャーンと手を掲げた先には――

 

「あ、あの……これ、下が……」


 顔を赤らめ、前かがみになりながら言うまとい。

 そこには、肩を露出し、下はミニ丈で素足が見えている――クリーム色のワンピースを着たまといの姿があった。

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