第19話 義妹とボス戦

 抜けかけたまといの魂をなんとかを口に戻し、復活の呪文をかける。

 

 そのあいだに千賀ちかさんは修司しゅうじを一度立たせ、まといの正面――席の奥側に座っていた。さすがに息が合っている。

 

「どうだ稜人たかと、来月からの文清ぶんせい一レベルでかわいいだろ!?」

「お、おう……そうだな」


 修司のいつものやつに生返事でつきあう。

 まあ、たしかにかわいいけど……みてくれだけならまといも負けていない。

 が、陽のオーラが思ってた以上に飛んでた。

 

 ギャル感がありつつも、下品さはなく、むしろ清楚系に近い。

 あざとさもほどほどに、しっかり女子受けも考慮したような振る舞いが逆にもう怖いくらいだ。

 

「ねえお兄ちゃんさあ、人前でそれマジやめてくれる? イタすぎなんですけどー」

「いいだろべつに。稜人には今までずっと話してたし――」

 

 修司おまえ……妹はお兄ちゃん大好き人間とか言ってなかったか?

 普通にウザがられてんじゃん……。

 っていうかその喋り方、これぞ妹って感じだな。

 

 向こうが兄妹の会話をしている隙に、意識を取り戻したまといに、念のため小声でたずねる。

 

「どうする? 帰るか……?」

「……ううん。が、がんばる……」

「そ、そうか……まあ、無理はするなよ」

「うん……」


 このレベルの陽キャを前にしても逃げないとは、よほど気合いを入れてきているらしい。なら、俺も最後まで足掻こう。

 

 再度気を引き締め、千賀さんを見据えた。

 

「え、えーっと……今日はわざわざありがとね。俺は有坂ありさか稜人たかと、去年修司と同じクラスだった。んで、こっちが桐葉きりはまとい」

「あ、まといちゃんっていうんだ!? よろしくね! 全然いいですよー!」


 険悪な表情を修司に向けていた千賀さんが、一瞬で人当たりのいい顔を浮かべ、まといに標準を合わせた。

 

「よ、よろしく……」


 ぎこちなく答えるまとい。まあこんなものだろう。

  

「注文まだ?」

「ああ、今から」


 修司と千賀さんが少し低いトーンで会話した。

 この辺はしっかり兄妹だなと感じる。

 

「すいませーん! 注文おねがいしまーす!」


 千賀さんが大きな声で店員さんを呼んだ。

 

 なんか、場の空気がもう浄化され始めてる。

 

 というかそれ、すぐに決めないといけないやつだよな。

 

 

 

 

 

 店員さんを待たせるわけにもいかないので、流れで決めることになった。

 

 俺と修司はガトーショコラ、まといと千賀さんはチーズケーキだ。それとドリンクバー。

 

 店員さんが離れていったところで、修司が軽い口調で言った。

 

「んじゃ、ドリンク取ってくるか、千賀はなにがいい?」

「私カフェオレー」


 修司が立つ。

 あ、この流れはマズイ……。

 

「行こうぜ稜人」

「お、おう……」


 流れのままに俺も立つ。

 

 分断攻撃。

 しょっぱなからこれか……いきなりまといと離れるのは危険だが、うまい返しが思いつかなかった。

 

 すまん、まとい。少しのあいだ耐えてくれ。

 

「……まといはなにがいい?」


 まあ知っているが、いちおう訊く。

 

「……コ、ココア……」


 そう言いながら、まといが捨てられた子犬みたいな目で見つめてきた。

 そんな目で見られてもどうすることもできませんて……。

 ボスの攻撃は無力化不可能なんです……。

 

「あ、じゃあ私もココアー! まといちゃんといっしょー☆」 

「ぇ? ……ぁ……ぅん?」


 ボスの属性変更攻撃。

 語尾の☆さんに殴られてまといさんも混乱してるし。

 

 だめだ、強すぎる。

 

「じゃ、じゃあ行ってくる……」

 

 不安は残るが、不安しか残らないが、俺は修司と、まといたちの分も含めたドリンクを取りに向かった。





 

「どうだ? めっちゃくちゃかわいいだろ?」

「お、おう……」

「今日はシンプルな感じだけど、あいつの本気マジでやばいからな?」

「へ、へー……それは一度見てみたいな……」

「まあそのうちな! ちなみに――」


 本気ってなんだよ? 第二形態でもあんのかよあの人。

 

 修司のシスコン話セカンドシーズンを適当に返しながら、まといたちのほうをうかがう。

  

 千賀さんがなにか話しかけているようだが、まといはうつむきがちで会話できているようには見えない。

 

 正直、ここまでのが来ると思っていなかったので、まといに悪いことしてしまったと感じ始めている。

 

 晩飯はなにかあいつの好きなものにしてやるか……。

 

「……おまえさあ、なんか変わった?」

「え?」


 そんなことを考えているとき、不意に修司が訊いてきた。

 

「やけに気にかけてるなーと思ってさ。まといちゃんのこと」

「あ、ああ……」


 忘れていたが、修司もコミュ力はあるほう。俺のちょっとした異変も気づかれてしまう。

 

「去年のおまえってさ、女子と一定以上仲良くしようとしなかったじゃん?」

「その言い方だと俺がわりと女子と話してたふうに聞こえるぞ」

「あれ? そうだっけ?」


 ククッ、と笑う修司。

 印象操作にもほどがある。

 

 すると、今度は少し真剣な顔で言った。

 

「……心配すんなって、千賀はあれでもまわりよく見てるから。まといちゃんともうまくやるさ」

「修司……」

「なんたって俺の妹だからな。マジ天使」


 結構かっこいいこと言いかけてたのに最後ので台無しだよこのシスコンが。

 

 でもまあ、そうだよな。

 

 この修司も、これで結構気をくばれるやつだ。その修司が絶賛する妹なのだから、きっとなんとかしてくれるさ。

 

 俺の唯一の友人がそう言ってくれているのだ。少しくらい信じてもいいのかもしれない。

 

 ドリンクバーでココアを入手し、俺たちは席に向かった。

 

 大丈夫、べつに修司も千賀さんも悪人とかじゃないんだ。普通にいい人なんだから。

 

 俺はなにか勘違いしていたようだ。

 

 千賀さんごめん。ラスボスとか勝手なこと言っちゃって。

 来年からは後輩になる女の子だ。もっとやさしくフレンドリーに――

 

「あ、おかえりー! 席移動したからー♪」

「……ぁ……ぁぇ」


 いや早いって。

 

 千賀さんは席を回り込み、俺の座っていた位置に移動していた。

 

 ボス戦特有の逃走不可じゃねーかよ。

 

 しかもなんか腕まで組んでますやん。

 まといさん、モンクの叫びみたいんなってますけど、大丈夫っすか……。

 

 とりあえずココアをテーブルに置き、俺はまといの正面、さっき千賀さんがいたところに座った。

 

「ていうか、まといちゃんめっちゃいい匂ーい! 香水なに使ってるの? あ、連絡先も交換したよー、ほら! 今度みんなで遊びに行こうよ?」


 テンション高く場を盛り上げる千賀さんが、キラッキラッの笑顔でそう言った。

 

 行動制限、状態異常、未来攻撃。

 

 特殊フィールドを展開して当然のように三回行動する千賀ラスボス

 

 

 

 

 

 …………無理ゲー…………。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る