第18話 義妹とゲームスタート
翌日の午後2時半過ぎ。
俺とまといは、
場所は最初にまといと入ったファミレス。
これも向こうからの提案なのでそのままオッケーした。いちおう二度目になるので、まといも少しは気が楽かもしれんしな。
そして、当のまといは今日もフードをかぶり、俺の服の袖をつかんでいた。
今日はこれから大一番が控えているので、細かいことは大目に見る。余計なことを言って、帰るなどと言われたらすべてが水の泡だからな。
それに、まといはああ見えて意外と要領よくこなせちゃったりするタイプだ。どうにかなるさ。
実際、顔合わせのときもうまくやってたしな。
「まとい、調子はどうだ?」
「……吐きそう、だけど……がんばる」
うん……だめかもしれん。
「ま、まあ……相手はただの同い年の女の子だ。修司はああ言ってたが、学校一の美少女なんてそうそういるもんじゃない。ゲームだと思って気楽にいこうぜ」
「ゲーム……そ、そうだよね……! うん! ”ラノベによく出てくる、陽キャオーラ抜群の、距離感ぶっ壊れてそうなキラキラリア充ギャル”なんて、そうそう来ないよね?」
「お、おう……こないこない」
大丈夫? その解像度。
それフラグになってません?
あなたもみてくれだけは学校一の美少女って感じなんだから、釣り合っちゃう感じで、確率的には、けーっこうヤバめな気がするんですけど。
ちなみに、まといのファッションは今日もフード付きのパーカーに、いちおうのスカート。タイツでしっかり肌は見せず、スニーカーで歩きやすさ優先。もう安心感すらある。
無事ファミレスに着いた。
今日も陽キャの一番星みたいな店員さんが出迎えてくれた。
だが、今日は隅っこの席ではなく、普通に日当たりのいい席に案内してもらう。
未来の学校一美少女に、あんな日陰席を用意するわけにはいかないからな。
「た、
「ここが普通の席だ」
窓際にある中央寄りのボックス席だ。
そう、どこにでもあるふっつーの席である。
「窓側と通路側どっちがいい?」
「ぐぅ……ま、窓側……」
苦渋の決断みたいになっていた。
まといを窓側の奥へと放り込み、俺も横に座る。
と、そのとき、俺のスマホがピコンと鳴った。修司からだ。
さっと内容を確認し、まといに伝える。
「修司がもうすぐ着くって。んで妹さんが少し遅れるってさ」
「ふぅ……よかった」
なにがよかったのだろう。べつに未来はなにも変わらないのだが。
「そろそろフード取っておいたほうがいいんじゃないか?」
「うぅ……」
まといがうめきながらフードを取る。
こいつだって十分かわいいんだから、自信持てばいいのに。
まあ、難しいよなあ……。
「大丈夫、俺もがんばるから」
「う、うん……ありがと」
なにをがんばるのかはわからんが、とにかく励ますところだろう。
そんな感じで覚悟を決めたところで、修司が店に入ってきた。
まといに小声で合図し、ゲームスタートだ。
「うーっす」
「おう、昨日の今日で悪いな」
男同士の適当な挨拶をしながら、修司は俺たちの向かいの席に座った。
「いいっていいって、どうせ暇だったし」
修司は軽く手を振りながら、愛想のいい笑みで言った。
修司には昨日、まといのことは伝えてある。
親が再婚し、義妹ができた。けどその義妹がコミュ症なので、おまえんとこの妹とちょっと話させてもらえないか、という感じだ。もちろん、ふたり暮らししている、ということは伏せてある。
修司もオタク的な話は通じるので、それで大体のことは伝わったはずだ。
妹が遅れてくるのはラッキーだったかもしれない。
まずは修司で準備運動をしつつ、今日のラスボス戦に挑むことができる。
「こっちが昨日言ってた、義妹の
「よ、よろしくおねがいします……」
まといがうつむきながら喋った。
まあ、最初はこんなものだろう。
「よろしくねー、まといちゃん。
「は、はい……」
こんなに固いまといは、顔合わせ以来な気がした。
俺との最初の会話もそういえばこんな感じだった気がする。
ちなみに修司のほうは普通にコミュ力あるタイプだ。
が、異性に関しては妹にしか興味がないので、まといに言い寄って来る心配もない。
「っていうか、まといちゃん、めちゃくちゃかわいいじゃん。千賀の次くらいにかわいいんじゃね? なあ稜人?」
「いや、俺おまえの妹見たことねえし……」
もうさっそく妹バカを発揮してきた。
「え? ぁ……すぅー……ぃや、ぁ……」
うーん、まといさん、陰キャ全開っすね。
家でのクールな感じや、懐っこい感じが見る影もない。
「あ、そういえば、俺が言ってた妹アニメ見た?」
修司が
これはチャンスだ。
昨日、まといと見たアニメの中にこいつが入っている。このパターンもワンチャンあると思っていたのだ。
「見た見た。昨日ちょうどまといと見たんだよ。なあ、まとい?」
「う、うん! す、すごくおもしろかった!」
「おおっ! まといちゃんもあのおもしろさがわかるか! 妹だもんなあ!」
よし、つかみは上々。
まといも話せている。
最後の理屈はさっぱり意味がわからんが、そこは無視して流れに乗ろう。
さて、どう話を盛り上げるか――
「やっぱり清楚系黒髪ロングの妹がデレるタイミングが神だよあのアニメは。作画もぬるぬるで神作画だった。声優さんのあの声もマジ神」
「おおっ!? まといちゃんわかってるねえ!」
……んんー??
まといさん? 急にどうしたの?
あなたさっきまで生まれたての小鹿みたいだったじゃん。
「……あ、はい……」
あ、戻った。
緊張のあまりバグったか?
しかし修司には受けていた……このまま、まといをバグらせる感じでいくか。
すまんな、まとい。俺は使えるものは使うタイプだ。
「でも、まといはツンデレ金髪ツインテールの妹も好きだったよな?」
「うん。しっかりとしたテンプレデレにもかかわらずスタッフさんの力の入れ具合が神」
「わかってるねえ!」
「あと――」
まといは止まらなかった。
◇
とまあ、若干まといがバグりながらも、修司とかなり盛り上がることができた。
さすがにまといを酷使しすぎかと思い、メッセージアプリで確認してみたが、思ってたより楽しい、と好感触だ。
やはり修司もオタク。なんだかんだ話しやすいのかもしれない。
「お、千賀がもうすぐ来るってさ」
しばらく話して落ち着いたそんなとき、修司がスマホを見て言った。
まといが体をこわばらせる。
「……大丈夫か?」
修司がスマホをいじり出したので、小声でまといに話しかけた。
「うん、なんとか」
「……マジで無理になったら、普通に言えばいいからな」
「えへへ……。大丈夫、がんばる」
俺の言葉に、子供っぽい笑みで受けたまといは、頼もしげに言った。
やっぱりがんばり屋だな。
「それに、ちょっと自信ついた……」
「おお、いいね」
どうやら修司と会話したことがいい経験値になったらしい。
準備運動作戦がうまくいったようだ。
これなら、ラスボスもいけるかもしれない。
「稜人……いくよ」
「おう」
様になった笑みを浮かべたまといに、俺もそれに乗るように口角を上げる。
さあ、ラスボス戦だ――!
「――ごめんなさーい、遅れちゃいましたー!」
ちょっとだけ慌てた、かわいらしい声が聞こえてきた。
俺とまといは精神を引き締め、同時にその声のぬしに視線を合わせた。
よし、まずは先制攻撃で――
「あ、初めましてー! 妹の
ピースサインを顔の横でクルッと傾け、ウインクしながらそう自己紹介した修司の妹。
妹。
その姿。
ビジュアル。
毛先にほんのりウェーブをかけたミディアムくらいの金髪。
なんか首元がゆるっとしたミニ丈の白いニットワンピース。
たぶん絶望の音色を奏でていたであろうヒールの高いブラウンのブーツ。
語尾から降ってくる☆に何度も頭を殴られながら、スクロールで確認してみるが、もう遅い。
”ラノベによく出てくる、陽キャオーラ抜群の、距離感ぶっ壊れてそうなキラキラリア充ギャル”がそこにいた。
祈るように、神頼みするように、一生のおねがいでもするかのように、おそるおそる……隣のまといの様子をうかがう。
そこには、『チーン』という効果音文字ブロックを頭上にかぶり、大きく口を開けたウーパールーパーみたいな顔をした、まといの姿があった。
……まあ、そうなるわな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます