第12話 義妹と間接……
「こっちも人がゴ……いっぱいだね……」
「休日で春休みだからな」
レストラン街に来た俺たちは、スイーツ的なものを求めてさまよっていた。
そういう店はそこそこにあるのだが、いかんせんオシャレーな外観で座席が丸見えなのだ。正直、俺でもちょっと尻込みしてしまう。
しかし昨日のファミレスのことがあったので、いちおう「ここにするか?」と
そんな目しなくても……。
「……んじゃ、この辺なら大丈夫か?」
「うん、ここならなんとか」
店頭のガラスケースに食品サンプルがたくさん置いてある、スタンダードなレストランだ。
昨日と結構かぶってるような気もするが仕方ない。今日はまといに楽しんでもらうための日なのだ。
そして昨日と同じく、できるだけ奥で陰になっている場所をおねがいした。
「ふぅ……やっぱり落ち着く」
ボックス席の中で一番陰になった部分に座り、くつろぐまとい。
あれ? 二日目にしてもうデジャヴってない? この先ずっとこれなの?
「……はい、これメニュー」
「おぉ……これがショッピングモールのファミレス」
だから、なんで同じ道通るのあなた。
「…………」
まといがじっと見つめてきた。
「……どうした?」
「……なんでもない」
「……? デザートはこっちかな……」
どうにかルートを変えようとメニュー表をめくり、「☆スイーツ☆」的なページを開く。視覚情報にまで陽キャパワーが入ってくる。
「うわぁ……すごい、どれにしよう」
メニュー表を見ながら浮かれるまとい。
こうして見ると、普通の女の子のようだ。いや、普通の女の子なんだけども……。
あれ?
というか、これデートじゃないの?
まといを女の子と認識した瞬間、脳に激震が走った。
なに俺普通にまといと買い物してんの?
義妹だ、家族だ、つっても、ほんの数日前までは赤の他人だったわけで……。
思わず冷や汗が出てくる。
同年代女子と買い物して、スイーツ食べて……しかも見た目は学校一の美少女的な女の子で、さらに昨日は一晩一緒だったわけで。あれ……俺はひょっとしてとんでもない――
「
まといはそう言ってフードをかぶり、背を向けていた。
「…………」
すん、と現実に戻された気がした。
サンキューまとい。おまえのおかげで目が覚めたわ。
俺の目の前にいるのは重度の陰キャの義妹。もうすぐ地獄の地獄が待ってるから回避しなきゃいけないんだよな。
あぶなかった。
俺はなんとか義妹ラブコメルート脱出し、バッドエンド回避系主人公ルートへと戻ることができた。
できたよな……?
注文が終わると、まといがフードをとった。いちおう顔を出す意識はしているようだ。
ほんと、みてくれだけは抜群にいい。
「稜人はなにか買わないの?」
めずらしくまといから話を振ってくれた。
「んー、参考書ちょっとみたいくらいかなあ」
「じゃ、じゃあ本屋も行こう……!」
どうやら自分だけ楽しんでしまっているみたいに思っているらしい。
べつにそんなことはないんだが、せっかくまといのほうから言ってくれたので乗ることにした。
「なら、近くだったし、このあと行くか」
「う、うん!」
その流れでこのあとのことを話したりしていると、注文したものがやってきた。
まといはイチゴパフェ、俺はチョコレートパフェ、そしてお互いに飲み物はココアだ。
知ってた。
「すごい……アニメで見たやつだ」
「これからはぜひとも現実を見てほしい」
俺が半目でそう言うと、まといはぷくぅっと頬を膨らませていた。
だから、そんな顔されると勘違いしちゃうって。
そして、パフェを数口食べたところで事件は起こった。
「おいしい。イチゴのソースがすっごいココアと合う」
「へえー、そうなのか」
「うん、食べる?」
まといはそう言って自分のイチゴパフェを、すっと俺の前に出してきた。
「え?」
思わず固まった。
だって、それはつまり、間接なんとかと言われるあれなわけで。
単語すらぼかしてしまう陰キャの俺にはハードすぎる難易度だ。
「どうしたの?」
まといは、きょとん、として小首を傾げている。
なんであなたそんな普通でいられるの!?
「い、いや……そういうのは、その……間接――というか、あれというか……」
もう陰キャ全開でしどろもどろになりながら話す俺。なんだか故郷に帰ってきたみたいだ。
「兄妹ならべつに気にしないものじゃないの?」
「いやいや、兄妹だからってそんなにするもんじゃないと思うぞ……俺も詳しくはないけど……」
「私は普通にするって聞いたけど」
「……誰に?」
「漫画で読んだ」
それ絶対、禁断の恋とか、そういうジャンルのやつでしょ!?
「もうちょっと現実の情報を仕入れたほうがいいと思うぞ……?」
「そう……?」
俺がアドバイス的なことを言うと、まといは少ししゅんとなってうつむいた。
おいおい、これじゃまるで俺がなにか悪いことしたみたいじゃないか。
今日はまといを楽しませてやるための日。
まといの言うとおり、兄妹なら一緒に生活する中でどうしてもそうなってしまう場面はあるはず。実際、昨日の風呂とかまといは俺のあとに入ったわけで……むしろ俺が気にしすぎなのかもしれない。
いや、それより今のでまといを傷つけた可能性すらあるのか……?
だとしたら、このまま終わるのはバッドエンドコース。
もう正常な思考ができるとは言えない状態だったが、まといを落ち込ませることだけはさけたい。
グチャグチャな思考のまま、俺は決断した。
「じゃ、じゃあ……ひとくちだけ、もらうよ……」
「う、うん」
なんかまといのほうも固くなっていた。
やめて? あなたが言い出したんですよ?
俺はまといが手をつけていない部分を少しだけ自分のスプーンですくった。
「ん……うまいな」
「でしょ?」
邪念ごと流し込むようにしてココアを口に含む。
「うん、たしかに合うかもな……」
「でしょ!?」
まといがうれしそうに声を上げる。
すまん、本当は味なんてもうわからない。
だが、まといが喜んでくれたなら俺もがんばったかいが――
「チョコもおいしそうだね? ひとくちもらってもいい?」
「――ごほっ!?」
むせ返った。
「だ、大丈夫?」
「あ、ああ……」
まといさん、あなた漫画に毒されすぎです。
俺の心臓持ちません、ほんと勘弁してください。
「……どうぞ」
「あ、ありがとう……!」
もう完全にあきらめた俺は、おとなしくチョコレートパフェを差し出した。
まといは俺の食べていた部分の反対側を少しすくって食べた。
そこで俺の食ってた部分にいかなかっただけよしとするよ……。
「……おいしい!」
「……うん」
そんな感じで、大満足のまといさんと、謎のラブコメイベントにボコボコにされた俺は、ファミレスをあとにした。
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