第11話 義妹とアニメショップ
「うわぁ……人がいっぱいいる……」
まといが巨大なショッピングモールを前に、うんざり顔でつぶやいていた。
ちなみにテイク2だ。二度目の大佐はさすがにもういい。
というか未だに服の袖をつかまれてるせいで、俺は理性を維持するのに精一杯なのだ。
「どこからいく?」
まといが
学校から帰るとそこには泣きじゃくる義妹の姿が――なんてことになったら、俺のメンタルが地獄の地獄になる。
環境が変わって大変なのはまといのほうだ。
親父にもうまくやれそうと言った手前、最低限の支援はするべきだろう。
心を整えてから答える。
「そうだな、カーテンは荷物になるから最後でいいだろ。せっかくだし、まずはアニメショップからいくか?」
「う、うん!」
まといもいい感じの反応をしてくれたので、俺たちはアニメショップへと向かった。
このショッピングモールは家から徒歩20分くらいのところにある。食料品を買うにはちと遠いが、生活用品を揃えるならここが手っ取り早い。
まといは特に買うものはないと言っていたが、こういうのはあとになって、あれがないこれがないとなってしまうものだ。
このタイミングならそんなものがあれば買うことができるだろう。
帰りにはカーテンなどが荷物になるが、そのくらいは俺が持って歩く。
歩くことは人間にとって最良の薬――的なことを昔のえらい人も言っていたからな。まあ、親父の受け売りだが。
そして、まといは普段外に出たがらないタイプだ。少しでもこうして連れて歩いたほうがいい。
って……思考が完全に保護者になってるな……。
「……どうしたの?」
「い、いや……なんでもない」
そもそも俺がそんなことを考えて気を逸らしているのは、あなたが俺の袖をずっとつかんでいるからなんですよ。
場所が場所だけに、まわりからどう見られているのかが気になって仕方がない。
「ふーん……」
だからその視線が俺の平穏な心を乱すんですよ、まといさん。
そうこうしているうちに、アニメショップに着いた。
「おぉ……すごい」
入口付近にびっしりと並べられたラノベや漫画に、まといが興奮気味に声を漏らす。
「まといはこういうところ、来ないのか?」
「……私が来れると思う?」
すん、とクールなまとい様に戻って、グサリと差すように言ってきた。
すみません。何気ない言葉が人を傷つけるのでした。
「ま、まあ……これからは来たくなったら俺が連れてきてやるから……」
「ほんと!?」
「お、おう……」
やらかしを埋めるように、つい未来の約束をしてしまった。
こうやって人間は滅びていくんだろうな。
アニメショップの中に入ってようやく袖を離してもらえた。ここは安全地帯と認識されたらしい。近くに人はいるが、オタクだとわかっているから大丈夫ってやつなのだろうか。
まといはまず新刊コーナーの前に立った。
「わぁ……見てるだけで楽しいね」
「そうだな」
普通の本屋に比べると、平積みされている量も多いしな。
このときばかりは男子でも、ウィンドウショッピングが好きな女子の気持ちがわかるのかもしれん。ちょっとした出来事を通じて、お互いの心をかよ――
「……服ばっかり見てる女の子も、こんな感じなのかな?」
ねえ!? なんで俺がちょっと知的な考察しようとしたとたん、かぶらせてくんの!?
最後ちょっといいこと言おうとしたところだったのに……。
っていうか、あなたもいちおうその女の子なんですけど。
「か、かもしれんな……」
まあ、せっかく喜んでくれているのだ。余計なことは言うまい。
「……? あ、こっちは今期の原作!」
まといは隣の、今期やっているアニメの原作が置いてある棚に移動した。
「時期的にもうすぐ来期のラインナップに変わるからな。今の陳列は今日で見納めかもしれんぞ」
「あー、なるほど」
俺が適当にそんなことを言っていると、まといがなにやらスマホを取り出した。
そのままパシャリ。
「……なにしてんの?」
「え? 変わっちゃうなら撮っておこうと思って」
「そこまですることなのか……?」
「うん、来期のアニメ始まったらまた来る」
……それは俺が連行されるやつじゃないのか?
続いてグッズコーナーに回った。
こちらは女性客が多いので、若干肩身が狭くなる。
最近の女性オタクは擬態のうまい人ばかりで、ぱっとみでは陽キャのリア充と区別つかない。普通に美人イケメンカップルがいたりするからな。爆発しろ。
そういえば、と思い出してまといに訊いてみた。
「ここの女性客も、擬態してるのか……?」
顔合わせのときに言っていた擬態を見破れる能力。いや知らんけども。
「え? うん。みんなこっち側だよ?」
「へ、へぇー……」
こっち側て。
でもまあ、まといがこの調子だからそうなのだろう。陽キャを前にすると陰キャモードに入るからな。
そうして、ひととおり見てまわってきた。
「なにか買うか?」
「んー……今日はいいかな」
「そうか? 遠慮しなくていいんだぞ。荷物とかなら持つし」
「そういうことじゃなくて……」
まといが言いにくそうに視線を泳がす。
せっかく来たのだからなにか買っていけばいいのに。お金に関しては、俺と同じく家事全般の報酬として、
「ここ……レジで人と話さなきゃいけないから……」
「……」
頭が痛くなった。ひょっとして俺は、結構ヤバめの義妹を持ってしまったのではないだろうか。
学校でぼっちになっているまといの姿が目に浮かぶ。俺のメンタルが地獄の地獄になるのが現実味を帯びてきた。
「今まではどうしてたの……?」
「ネットで買って置き配してもらったり、食料品はセルフレジで……」
セルフレジは陰キャを救っていた。さらなる普及をおねがいします。
「……じゃ、じゃあ俺がかわりに買ってきてもいいから……」
「ほんと!?」
一気にテンションの上がったまといは、限定付録付きのライトノベルを二冊持ってきた。しっかり限定付録付きになっているところがまといらしい。
そのままレジへ持っていき、会計を済ませた。
「ありがとね、
「おう」
アニメショップを出ながら、無邪気な笑顔で言うまとい。
なにはともあれ、まといが喜んでくれたのならよかった。
「次はどうするの?」
「んー……時間に余裕あるし、なんかおやつでも食う?」
「う、うん! 食べる!」
いい反応だった。
それに意図的にとはいえ、結構歩かせてるしな。
「じゃ、そっち方面に行ってみるか」
「りょーかい!」
かわいらしく敬礼のポーズをとるまとい。
こうして、ずいぶんご機嫌になったまといとともに、次の目的地へ向かっていった。
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