記憶の光芒

色澄そに

0.

 その日、四人は出会った。

 閉じられた四番部室の、開かれた扉を挟んで。

 並んだ独り言が、愛読書になってしまった生徒。

 大切な思い出が、孤独を約束してしまった生徒。

 言葉を自分と錯覚して、居場所を持たない生徒。

 放り出された世界で諦めて、余生を生きる生徒。

 これは、彼らが紡ぐ物語。或いは、紡いでいた物語。



           *



 制歴二〇二四年、五月二三日。深夜。

 突如として、世界各地で、無数の満月が観測された。

 煌々と赤黒く、夜闇に凛と浮かぶともしび

 それは仄暗く地表の全てを照らす明かり。

 まるで焚火のように、人々を惹きつけるリコリス、地球ほしを冒すタナトス。

 人も人も人も一様に空を見上げ、しんと張り詰めた五月夜さよに燃焼の音を幻聴いた。

 昨日いま今日いま明日いまも、等しく静まり返った小夜さよに光芒の到来を許した。

 最早、見上げることしか人類に為せることはない。それが世界の摂理であるから。


 ただ呆然と上空を見上げる人々の足元で、知れず小石がコトリと揺れた。

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