第3話 急襲

 通訳と共に帰途につくと、突如として黒い影が目の前に現れた。よく見ると、ツキノワグマだった。


 アフリカのど真ん中にいるはずのない動物。妖術によるものか。


 目は血走り、涎を垂らして咆哮してくる。明らかに俺を食い殺そうとしている。


「加瀬さん、下がっていてください」


 通訳の日本人を下がらせ、俺は前に進み出る。一撃で仕留められるかは分からないが、退けるくらいはできるはず。


「【影織】」


 そう唱えると俺の影は伸び、数倍の面積に拡張された。その中から、一振りの日本刀が浮き出る。


 すぐに刀を手に取り、抜き放って天に掲げた。


「【宵闇】、焼き尽くせ」


 すると影はどんどん濃くなっていき、草や土が視認できないほどの黒さとなった。展開した影の範囲内から一切の光と熱エネルギーを搾り取り、攻撃に転用する。それこそが【影織】の正体。日本刀は制御弁に過ぎない。


 憐れなツキノワグマは熱線に胸を貫かれ、血を流すこともなくそのまま倒れこんだ。傷口の焼ける嫌な音がする。


 今回はクマで済んだが、【ぬばたま講】なら、受肉した妖怪を放ってくるくらいのことはしそうだ。


 その時、俺は人間の体をしたそいつを殺せるだろうか?


 今こそ、覚悟が問われているような気がした。


 何せ【ぬばたま講】は、日本では救国の英雄なのだ。


 受肉した鬼神【虚空夜叉】が首都東京で暴れまわった際、それを討伐したのが奴らだ。実際には、マッチポンプなのだが。


【虚空夜叉】を受肉させたのは奴ら自身だ。つまり、表社会での覇権を握るためにやったこと。


 それを知ってから、俺は奴らと戦うことに決めた。


 りんの仇を取り、日本を取り戻すまで、戦いは終わらない。

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あやかし嬲りの妖術師 川崎俊介 @viceminister

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