33話  保知の語ることには

カジダわぉぉかじだおん火事だおーん

離れが燃えている。

気がついて、おおきな声で知らせたさ。


そんときゃ、もうオレには手のつけようがなかったさ。


遊び宿の離れは、あっという間に灰になっちまった。

黒焦げの柱の間から、あの少年と、あの青年の亡骸なきがらがみつかったと。


だけど、オレは鼻がいいからさ。

すぐに、その亡骸なきがらは、とわかったさ。


火の神さんからの贈りもの、カグツチがいたからな。

あいつがいりゃあ、火の粉も難なく避けたはずさ。



オレは、ひとまず、その場を去ることにした。


くんくん。あの少年とあの青年の匂いをたどることにしたのさぁ。

術を使ったんだろう。かすかにも残ってやしなかったが。


十三詣じゅうさんまいりに行くってのを知ってるからさ。

たぶん、あっちだ。

次に行くのは、五之宮いつつのみやだ。


ただ、五之宮は島じゃないか。


このなりで舟に乗せてくれって言ってもなぁ。つまみだされるわけよ。

どうしたもんかと連日、うろついていると、ある日、浜辺で、うずくまっている娘に出会った。


「どうしよう、どうしよう」娘は半泣きになりながら、浜辺の砂をまさぐっていた。


 ——どうしたね。

 オレは娘に聞いたんだ。


 なんで言葉が通じるんだとは言いっこなしさ。たまに波長が合う人間がいるのさ。娘は泣いている理由を話してくれた。

ふぁふぁの形見のかんざしを失くしてもうた」


 かんざしを失くしたと気づいたのが今朝。いろいろ探しあぐねて、もしや、この浜辺で落としたんじゃないかと探していると。


 そりゃ、難儀な。寄せて引く波にさらわれたかもしれん。


 ——オレは失せもの探しは得意だよ。鼻がきくからね。いっしょに探してやるよ。

 

 女子は目をまんまるにした。

「ええのか」


 ——ええさ。


 そんときには、もう勝算があったのさ。娘の匂いがついている、かんざしを思い浮かべる。潮に洗い流されちまっても、魂みたいなのが物には宿るからさ。

 母親の形見といえばなおさら。かんざしも娘のところに戻りたがっている。


 お日さんが小首をかしげるほどの時間で、浜辺の砂の中に埋もれているかんざしを、オレはみつけたね。

 娘のよろこびようと言ったら。



 帰って、父親にオレのことを話したんだと。

 朝日、夕日を拝んでいる犬が、浜辺にいる。失せもの探しをしてくれた。神さまのお使いにちがいないと。

 まぁ、そんなようなもんだし。

 その日から、お供えとかされて、まったく食うに困らんかった。

 あやうく、少年と青年のことを忘れかけるところさ。


 が、十三詣じゅうさんまいりは、オレにとってもやぶさかではない。

 だから娘に、五之宮に行きたいのだと告げた。 

 娘は父親の里長に話してくれた。


「もうすぐ、五之宮いつつのみやへの海のみちが開く。そんときに、われらと渡れば行けましょう」



 えーいや、さっと。






※お久しぶりですー。

 こんな感じで、ゆっくり更新です。

 保知のイメージは、ここほれ、わんわん、です。

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