24話  ヤチグサの語ることには

 都へ行けば。


 都の帝宮で働けば、腹いっぱい食えるし、嫁入り先にもハクがつく。

 その娘は早くに親を亡くしていたからねぇ。勢いだけで志願しちまった。


 都は聞いた通り、おっきなところだったよ。


 娘が連れて行かれた妃宮きさきのみやは何重にも門戸があって、五色の布がはためき、女たちは紅をさし、額には黄色の粉をはたいていた。

 そのひとりになる! と娘の心は、わきたったさ。


 娘は女たちの中で、めきめきと頭角を現していった。向いていたのだね、妃宮きさきのみやの仕事が。女同士のいさかいも屁でもなかった。一発、はたいてやって娘は、どの女も黙らせた。


 ある日、娘は、とある男とねもころになった。

 それは、妃宮きさきのみやでは禁とされたことだ。かくしたさ。

 しかし、娘の腹がせり出してきて、かくしようがなくなった。


 相手の男は歯を全部抜かれて、放逐されたとさ。

 娘も出産ののちに、同じように放逐ほうちくされることに決まっていた。


 だがね。身籠みごもっていた妃が、月満たずに男子を産み落とした。

 きさきの容体はかんばしくなかった。乳も出ない。

 最初は貴人の女から、乳の出るものを探した。生まれた皇子にあてがうが、どうにも乳を飲まない。

 死期を待つだけになったきさきが、ほそい声で言ったそうな。

「あの娘の刑を免じておくれ。 あの娘の乳を皇子に——」


 その夜明けに、娘は赤子を産んでいたんだよ。

 娘は牢獄から妃宮きさきのみやへ引きたてられた。皇子は娘の乳を含んでくれた。

 見届けるように、きさきは亡くなった。


 その間、娘の産んだ赤子のことは、すっかり、みな、忘れておったのさ。

 娘には、子は死んだと聞かされただけだった。


 それから、五年ほどかね。娘が皇子に仕えたのは。

 皇子も成長し、娘は、その罪をつぐなったということで故郷へ帰されることになったとさ。


 えーいさ、のさ。

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